第三十話 依頼の完了
翌朝早く僕らの仕事の成果を見に来たジオットさんは、畑に転がった魔物の死体を見てひえっ、と悲鳴を上げた。そしておっかなびっくり魔物の全身を見回した後、僕らの手を取り感謝の言葉を述べた。
「こんな凶悪そうな獣が畑を荒らしていたとは……ありがとうよ。まだ若いのに強いんじゃのう」
「いえ、そんな……ふあぁ……」
念の為にとあれから一睡もせず畑を見張っていたので、流石に眠くて欠伸が零れる。隣のアロアも、軽くうとうととしていた。
「ええと、依頼を達成して貰ったら書類にサインをするんじゃったかのう? ちょっと待っておくれ」
ジオットさんが、農具入れの中からインクと羽根ペンを取り出す。眠い目を擦りながら僕が遂行書を手渡すと、さらさらと署名欄にサインしてみせた。
「これでよし……と。そうだ、思ったより危険な目に遭わせてしまったようじゃからの、畑の作物を少し分けてやろう」
「いえ、そんな……」
「なあに、若いもんが遠慮なんかするでない。持っていきなさい」
「は、はい。それじゃあ……」
遠慮がちに僕が頷くとジオットさんは畑に入り、間もなく両手一杯に作物を抱えて戻ってきた。そしてそれを、僕とアロアに手渡す。
「いいんですか、こんなに?」
「よかよか、お前さんらには世話になったからの。これからも頑張りなさい」
「……はい!」
ジオットさんの好意に感謝しながら、僕らはジオットさんに別れを告げ畑を後にした。魔物の死体は、後で農夫仲間と処理するとの事だった。
「作物はマッサーさんへのお土産にしよう」
「うん。喜んでくれるかしら?」
フェンデルへの道を歩きながら、初仕事を果たせた達成感に思いを馳せる。眠いしお腹も空いたけど、心からやって良かったと思えた。
「ギルドに報告に行くのは一眠りしてからにしようか。僕、もう眠くて眠くて……」
「私も。一晩中寝ないなんて、初めての経験だったもの」
「きっと今なら、鼻を摘ままれたって起きない自信があるよ」
「言えてる!」
顔を見合わせ、僕らは笑った。今日もまた、穏やかな一日が始まろうとしていた。
宿に戻った僕らは主人のマッサーさんに貰った作物を手渡し、部屋のベッドで倒れるように眠りに就いた。次に目が覚めたのは、山の向こうに日が沈み始めてからの事だった。
「マッサーさん、ちょっとギルドに報告に行ってきます。すぐ戻りますから」
「ああ」
アロアと共に、カウンターにいるマッサーさんに声をかける。それに無愛想に返事を返したマッサーさんだったけど、不意にちょいちょいと僕らを指で手招いた。
「? どうしました、マッサーさん?」
「……最初が上手くいったからって、気を抜くなよ。冒険者は信用が第一の商売だからな。これからも気合いを入れていけ」
「……はい!」
マッサーさんからの激励に、自然と気が引き締まるのを感じる。僕らは力強くそれに頷くと、改めてギルドへと向かった。
「……はい、確かに。では、こちらが依頼の報酬になります」
ギルドで遂行書をこの間と同じ事務員さんに見せると、事務員さんは取り出した書類のサインと遂行書のサインを照合し、それからお金の入った革袋を僕らの前に置いた。紐を緩めて中を確認すると、確かに依頼書に書いてあった分だけのお金が入っている。
「頑張りましたね。上手く達成出来るか本当は少し不安だったのですが」
「はい。ちょっと予想外の事も起こったけど、何とかなりました」
「そうですか。ところで……」
そう言うと、事務員さんが一旦言葉を切る。そして、妙に真剣な目付きで言った。
「何か変わった事は起こりませんでしたか? そう、例えば……魔物が現れたとか」
「!?」
その言葉に、思わず硬直する。事務員さんは、探るような目で僕らを見る。
「……一匹だけ。それほど強くなかったので、何とかなりましたけど」
「解りました。上には一応報告させて頂きますが、よろしいですね?」
「……はい」
僕らが頷くと、事務員さんは話はそれだけだと言う風に視線を下げ、書類整理を始めた。僕らは無言で、顔を見合わせる。
言葉に出来ない不安が、僕らの心の奥底で芽生え始めていた。




