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Never give in ~俺たちは絶対に諦めない~  作者: 玄雅 幻
第九章 憎しみの最果て
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四十九

 秋月の母親を所長室へ置いたまま、俺達は管理室へ戻っていた。彰の身体が熱を持ち始め、意識を失ったからだ。管理室の奥には、宿直室があった。彰は、そこへ寝かされている。

「……後は、彰の体力次第でしょうね」

 彰を担いで連れてきた史哉が、暫く様子を見てくれていた。

「体力次第って……」

 最悪な事態も想定しなければならないってこと? 考えただけで、血の気が引いて行く。

「彰なら、頑張ってくれると思いますよ?」

 俺の目線に合わせ、史哉は膝を折って微笑む。

「彰が、澪を置いて逝ってしまうとは、思えませんからね」

 彰は、俺が幼い頃、毎日部屋を訪れていたと話していた。俺も、傍に居たい。

「……俺、彰の傍に居たら、駄目かな?」

「駄目と言っても、行くのでしょう?」

「行く」

 短く答えると、そのまま微笑んで、送り出してくれた。


 宿直室に入り、彰が横になっているベッドに近付く。苦しげな呻き声が聞こえてきた。

 史哉が言うには、彰の体内に入り込んだウイルスと抗ウイルス剤が戦っている。だから、鎮痛解熱剤を使うことは、返って悪影響を与えるかもしれない。そういう話だった。


 意識を失って、もう半日以上、経つ。

 俺が意識を失った時の事を、想い出していた。史哉に木刀の切っ先を向けられ、自分の行動が如何に愚かであるかを、切々と語られた。そして、待たされる者たちの心中が、どんなに辛く不安であるかを。

 二人に、こんな辛い思いをさせていたのかと、とても申し訳なくなった。


 脇の下や、首元にタオルに撒いた保冷剤を宛がい、額には水で冷やした濡れタオルを置くが、直ぐに温まってしまう。保冷剤を取り替え、濡れタオルを水に浸しては額に置いてを繰り返しているが、一向に熱は引かない。

 呻き声を上げることは、少なくなってきたが、眉間に皺を寄せたままだ。汗が伝い落ちる首筋を、乾いたタオルで拭いてやると、彰が大きく息を吐き出した。

 備え付けのパイプ椅子へ腰かけ、彰の様子を看ていると、フッと脳裏に美咲さんが浮かんだ。

「美咲さん、まだ三途の川に居るのかな……」

 急に怖くなって、彰の手を両手で掴む。逝って欲しくない。これ以上、失いたくない。

「伯父さん、母さん、父さん。お願いだから、彰を連れて行かないで。彰、頼むから、戻ってきてよ」

「っ……。勝手……に、……殺す、な。……バカ」

 小さく呟かれた声に顔を上げると、僅かに目を開き、彰が俺を見ていた。

「彰! 意識が戻ったの!」

「ああ、澪が……泣く、から……帰れ、だと……よ」

 それだけ話すと、彰は静かに目を閉じた。呼吸は、今までより穏やかなものに変わっている。体温も、少しずつ下がり始めた。

 

 安心した所為か、いつの間にか、俺まで眠っていたらしい。なんとなく、夢の中で母さんにあったような気がしたが、朧げとしか覚えていない。でも、笑っていた気がする。時計に目を向けると、あれから三時間が経っていて、慌てて、彰の額に手を当てる。額は、ひんやりとしていた。

「え……? い、生きてるよね?」

 今度は、脈拍を取る。ちゃんとあるけど……。

「なんか、ゆっくり?」

「何が、ゆっくりなんだ?」

 俺が触った事で、目が覚めたらしい。ごそりと、彰が動いて起き上がる。それに伴い、俺は彰の顔へと、視線を向けたが……。

「脈拍……。っ! 彰、目! 目! 目!」

 彰の目が赤くなっている。充血とか、そんなものではない。白目の部分は、しっかりある。虹彩(こうさい)の部分が赤い。

「何度も連呼するな! 五月蝿いだろうが! 大体、この部屋は眩し過ぎんだよ! 灯りを落とせ!」

 彰に怒鳴られて、急いで電気を消す。しかし、今度は暗すぎて、俺が動けない。宿直室には、窓がない為、明かりを落とすと真っ暗だ。

「そんな場所で、何突っ立ってんだ?」

 何でって……。あれ?

「彰、俺が見えてるのか?」

 こんなに暗いのに?

「何、馬鹿なこと言ってんだ? 見えるに決まってるだろうが」

 やっぱり、変だ! 気になって、もう一度灯りを点けてみる。

「眩しいって言っただろうが!」

「ちょっと待ってて、史哉を呼んでくる」

 灯りを消して、宿直室を飛び出した。


「彰の目が、ですか?」

 管理室へ戻ると、史哉と秋月は、モニターを確認しているところだった。

「真っ暗にした方が見えている様子だった」

 史哉に、彰の状態を話すと、首を傾げている。

「もしかすると、彰の言っていた状態なのかもしれませんね。ほら、所長室で、彰が感染後に抗ウイルス剤を使ったから、どうなるか分からないと言っていたでしょう?」

 そして、サングラスを渡される。

「これなら、支障は出ないと思いますよ」

「体温が低いのと脈拍が遅いのも、その所為なのか?」

「恐らく、そうでしょうね。秋月さんの話を伺っていたのですが、感染した個体のデータはあっても、抗ウイルス剤を使われた個体が居なかったようで、どうにもならないようです」

 史哉も、ちゃんと秋月のことを認めたのか。そのことが嬉しくて笑っていると、史哉も微笑んだ。

「秋月さんが、僕達に敵対する人物ではないと確証を得ることが出来ましたからね。それより、宿直室へ戻らなくていいのですか?」

「そうだった。ありがとう。サングラス試してみるよ」

 はたして、史哉の言う通りになった。

「これなら、灯りも、なんとか我慢できるな」

「なあ。これって、抗ウイルス剤の副作用なのか? 体温も俺より低いだろ」

 彰の腕に触れると、ひんやりしている。彰に、今まで以上に暑く感じないか確認してみたが、そうでもない様子だった。

「俺にも、わからねえな。それより、食い物くれ。リュックに入ってる」

 催促されて、リュックから固形の栄養補助食品を二箱取り出し、彰へ手渡した。

「これからの事だが……。とりあえず、皆で俺の故郷へ、行かないか?」

 彰の故郷? 確か、九州だったよな。俺も、自分のリュックから食料を取出し、食べ始める。

「学院も、この有様だ。再開されるにろ、時間が掛かる。史哉は関東出身だが、父親を亡くしてる。秋月は、母親があんな状態じゃ、どうしようもねえだろうしな。澪を、あいつ等の所には、帰したくねえ。それなら、いっそ、皆を連れて帰ろうかと思ってな」

 確かに、俺も史哉も秋月も行き場がない。今までは、生き延びることに必死だったけど、これからの事も考えなきゃならないのか。

「……瞳子さんにも会いたいから、俺は彰と一緒でいいよ」

 史哉と秋月には、後から話してみよう。食べ終わった食糧のゴミを始末して立ち上がると、彰も一緒に着いてきた。

「寝てなくていいのか?」

「充分だ。史哉や秋月とも、話があるんだよ。」

 彰は、先に管理室へ戻っていく。これからのことか……。予想出来ないのが、正直な気持ちだった。学院の事もだが、秋月の母親の言葉が気になっている。彼女は、この国を……。

 そこまで、考えて首を振った。そんなこと、ある筈がない。

 とにかく、学院を脱出するのが、先決だ。彰の後を追って、俺も管理室へ向かった。


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