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Never give in ~俺たちは絶対に諦めない~  作者: 玄雅 幻
第九章 憎しみの最果て
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四十六

 その瞬間、秋月の身体が崩れ落ち、慌てて支えると顔色が真っ青になっていた。パソコンを扱っていた史哉と彰も、駆け寄ってくる。

「モニターに、秋月の母親が、映っているんだ」

 二人は顔を見合わせ、再び秋月へと視線を戻す。

「谷崎君の推論通りに、なってしまったわ。取り乱して、ごめんなさい」

 秋月は、自分の考えが根底から覆されてしまったのだから、辛い現実だろう。

「澪、何番に映ってるんだ?」

 彰に声を掛けられ、モニターへ視線を戻し、ジッと見詰める。

「六番に映ってる……。なあ、奥に男の人が、倒れてないか?」

 史哉と彰は、パソコンへ戻り、画像処理を始めた。俺は、近くにあった椅子に秋月を座らせる。

「谷崎君、ごめんなさい」

「……今は、休んでて。さっきは、助かったよ。秋月と史哉が居なければ、入口で死ぬかもしれなかった」

 本心を伝えれば、何故か泣き出されてしまった。どうしていいか分からず、助けを求めるように彰へ視線を遣れば、彰には溜息を吐かれる。

「暫く、彼女のことをソッとしておきましょう。彼女は、自分の所為だと感じているから落ち込んでいるんです。澪にも、その気持ちが分かるでしょう?」

 史哉が俺に声を掛けて、奥の席へと誘い、語りかけてくる。確かに、皆を死なせてしまったのは、自分だと責めていた。秋月も、同じように自分を責めている。そういうことか。

「おれも手伝えることがあるか?」

「とりあえず、生きる屍が居る範囲を特定している最中なので、休んでいてください」

 その言葉に、ガックリと肩を落とす。管理関係で、俺に出来る仕事は無い。高等部でも、校内管理は、執行部の役割だった。彰も、史哉と別な席でパソコンを扱っている。

 することもなく、ずらりと並ぶモニターを見る。地上階は、人影が映っていないモニターの方が多く、地下は逆に映っていないモニターが少ない。

 六番は、彰たちが固定したのか、画面が切り替わることがない。

 秋月の母親は、五十代だろうか。秋月は、父親に似てるんだろうか。母親とは、あまり似ていない気がする。

 不意に、視線を下ろすと、彰の背中が目に入り、溜息を吐いた。俺、彰に何かしたのかな? 立ち上がって、彰の隣へ進んだ。

「ねえ、彰」

「今、忙しいから後にしてくれねえか」

 なんだよ、それ。

 完全に無視されて、でも座っていた席に帰るのも癪にさわって、その場に座り込む。

「じぁ、終わるまで待ってる」

「……ハァ。勝手にしろ」

 なんなんだよ。勝手なことするなって言ってみたり、勝手にしろって言ってみたり!

 俺は、立ち上がり自分の荷物を取りに行った。史哉と秋月は、驚いた顔で俺を見ている。

「どこに行くつもりですか?」

「所長室。もう、いい。……勝手にしろって言われたし、勝手にす――――」

「てめえはガキか。俺は忙しいと言ったはずだ。黙って大人しくしてろ」

 彰は相変わらず、パソコンのモニターを見ている。

「忙しいのは、確かですが……」

 困ったように、俺と彰を見比べている史哉に、これ以上は迷惑を掛けられなくて、俺は部屋の隅へ行って座った。昼前まで仲良くしてたのに、どうして、こうなったんだろう。


 三十分程、経った頃。

「矢張り、地下には多くの生きた屍が居るようですが、既にエレベーターがロックされ、封鎖されていました。地下へ通じる非常用階段は、一体も見当たりませんでした」

 秋月を含めた四人で、史哉の居た席に集まり、話を聞く。

「一階に十二体。二階の所長室に男女一組の人間、廊下に八体の生きた屍が居ます。ただ、モニターで確認したのですが、女性は銃を持っているようです」

 矢張り、銃を持ってるのか。ちらりと秋月を見るが、俯いていて顔が見えない。

「もうひとつ、問題があります。所長室は、薗村さんの認証カードでなければ、此方側から開けられません。彰が、認証コードの書き換えが出来ないか試みていたんですが、出来ませんでした」

 そんな技術もあるのか。やっぱり、彰は凄いな。

「廊下の八人は、俺と史哉でやる。お前達は、後ろに居ろ」

 黙って聞いていた彰が、告げた内容に納得が出来ず、キッと睨み上げた。

「ふざけてんの? 八人も居るんだよ! なんで、俺まで後ろに、回すんだよ!」

「所長室への廊下は、狭い。大勢で戦える場所じゃねえんだよ。大体、澪は勝手な行動をし過ぎだ。そんなんで、連携が取れると思ってんのか?」

「だからって!」

「澪、分かってください。廊下では、彼女のクロスボウも使うことが出来ません。狭い中での立ち回りになりますから、無暗に矢を放てなくなるんです。そうなれば、彼女は身を守ることも出来ないんです。二階で暴れれば、一階の生きた屍に気付かれる可能性もあるのです」

 背後から来るかもしれない生きた屍を警戒しろと、史哉は言いたいのだろう。確かに、廊下の八人を相手にしていれば、秋月が無防備になり、気付くのも遅れる。

「……分かった。でも、無理だと判断したら飛び込むから」

 二人が、生きた屍になる所なんか見たくない。()して、二人を手に掛けるような事になってたまるか! 彰を睨み上げたまま了承すると、彰が片笑みを浮かべた。

「それでかまわねえ。準備を始めろ。五分後に管理室を出る」

 それだけ言い放つと、くるりと背を向け、出る支度を始めた。やっぱり、変だ。なんで、俺を遠ざけようとするんだよ? グルグルと、今までの行動を頭の中で、振り返っていく。

 まさか――――。

 離れて行く彰の左腕を掴み、制服の袖を捲り上げる。嘘だろ……。

「何時だよ! 何時、怪我したんだよ!」

 俺の叫び声に、史哉と秋月も慌てて、駆け寄ってくる。彰は、諦めたのか、為されるがままになっていた。

「……施設の入口が、開いた時だ。咄嗟に退いたが、引っ掛かれちまった」

 赤黒く、抉られた傷痕。

「澪には、気付かれたくなかったんだがな」

 寂しげに微笑む彰を見て、あの時みたいに自分の中で、何かが弾けた。

「……さない」

「どうしたんですか?」

「赦さない!」

「澪!」

 ガタン!

 そのまま、管理室のドアから飛び出し、二階へ続く階段を駆け上がる。足音を聞きつけたのか、踊り場にいた生きた屍が振り向き、手を伸ばし、此方へ動き始めた。その足を、下から薙ぎ払うように切り落とすと、前のめりになり、その頭へ剣鉈を見舞った。

「一人目……」

 踊り場から二階を見上げると、三人の生きた屍が見える。一番手前にいる生きた屍を蹴り転ばせて、その横にいる生きた屍の胴へ剣鉈を振るい、そのままの勢いで、もう一人の胴へ回し蹴りを入れる。

 剣鉈で攻撃した生きた屍は、自分の血液で滑って立ち上がれずにいる。それを後回しにして、一番最初に転ばせた生きた屍を蹴って反転させ、背中に乗って首を刈り落とした。

「二人目……」

「後ろだ!」

 その声に振り返ると、眼前まで手が迫っている。退いても間に合わない。咄嗟に屈み、横へ回転して躱すと、剣鉈の刃を返し、腕を下から上に斬り上げた。バランスを崩した生きた屍は、よたよたと後退し、それに合わせ、脇腹へ横蹴りを入れる。

 転がった生きた屍の頭へ叩き付けるように剣鉈を振り下ろすと、グシャリと側頭部が潰れた。

「三人目……」

 ようやく立ち上がって生きた屍は、腰を曲げた状態で、顔だけを前に向けている。その頭へ上から剣鉈を見舞った。

「四人目。……後、四人」

 奥へ進もうとすると、腕を引かれた。

「澪! いい加減にしろ!」

「離せ……。彼奴等、絶対に赦さない」

 廊下の奥に(うごめ)く姿が目に入り、駆けようとするが腕が掴まれていて、叶わない。

「チッ。こうなることが、目に見えてたから、言えなかったんだろうが! いいか、絶対、離れるなよ」

 そう言って、彰が腕を離した。その瞬間、奥へと駆け出す。後ろで、彰が舌打ちをしているのが、分かったが聞かなかったことにして……。

 所長室までの道程は、俺が剣鉈で、生きた屍の足を切り落として転ばせ、彰が倒す。それの繰り返しだった。

「少し、遅れて、しまいました」

 最後の一人を倒して振り返ると、血に染まった木刀を持った史哉と、肩で息をする秋月が立っていた。

「一階の、管理室に近い場所に居た者たちは、始末してきました。当分は、支障は出ないと思います」

「いきなり飛び出すなんて、何考えてるのよ。着いていく、私達の身にもなりなさいよね」

 上がった息を、鎮めるように胸へ手を当てていた秋月が、俺を射抜くような視線で見た。

「ここからは、バトンタッチよ。私が、必ず……。母に鍵を、開けさせるわ」



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