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Never give in ~俺たちは絶対に諦めない~  作者: 玄雅 幻
第九章 憎しみの最果て
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四十五

 一階へ下り、大学部を見渡す。カフェと購買部の近くに、揺ら揺らと動く人影が見えた。

「チッ。さっきの銃声で、集まってきやがった」

 彰が小声で愚痴を言う。

「どうしますか?」

 出入り口は、一ヶ所。人影のある場所を通らなければ、研究施設には入れない。

「……クロスボウは、動いてる的を撃つの?」

 クロスボウの競技があることは知っている。ただ、どんな競技なのか、何をするのかは、全く知らない。

「アーチェリーと同じで、動かない的ですね。貴女は、二分間で何本放てますか?」

 アーチェリーって弓だよな? 弓道と同じ? 俺が、思考を巡らせている間にも話は、進んでいく。史哉が秋月に訊ねると、少し悩んだ顔を見せた。

「立ったままで、ぎりぎり三本ね」

「僕も三本です」

 それなら……。動いていない方が、攻撃できるよな?

「先制は、史哉と秋月。俺と彰で、二人が外した奴らを倒そう」

 忍び足で近付き、射程内に入ったところで史哉と秋月が矢を放った。最初の二人は、倒れて動かない。次の二人は史哉が外し、秋月は当てて、一人残っている。しかし、攻撃されたことは分かっても、俺達の場所が分からないのか、動かなかった。

 史哉と秋月が次の矢を放ち、建物の側に居た人影は、全て地に伏した。

「俺達の出る幕は、なかったな」

「僕は、まだまだです。ですが、秋月さんは凄いですね。大会にも出られたことが?」

「一度だけ、父に連れられて出たけど、緊張して駄目だったのよ」

 彰たちが会話をする中、俺は遺体から、矢を抜いていた。

「史哉、これまだ使えるのか?」

「使えないことはないですが……」

 血塗れになった状態じゃ、流石に使えないよな。カフェテラスに置かれている雑巾で、手早く矢に着いた血を拭い取っていく。無いよりましだろう。

「一応、予備として持っておいてほしいんだ」

 二人に手渡せば、困惑した顔で受け取った。


 研究施設と大学院の建物は、コンクリート製の塀で覆われている為、外から中の様子は窺えない。出入り口の門から覗き見る限り、すぐ側には居ない様子だ。

 其々の武器を構え、忍び足で中に進む。研究施設は、門の真正面にある。大学院の建物には、見える範囲で二、三人の人影が見えた。

 指差しだけで、合図を送り、何とか入口まで着く。一応、三人へ認証カードを手渡していく。

 その時だった。

「貴様等の所為で!」

 塀の前で、一人の男性が大声で叫び声を上げた。大学で銃を取り上げた先輩だった。

「噛まれたじゃないか! 貴様らの所為だぁぁ! 貴様等も道連れにしてやるぅぅ!」

 その叫び声を道標にするように、大学院に居た生きた屍達が、集まりつつある。

「彰、急いで!」

 認証カードを使うよう彰に促す。その間にも、先輩は大勢の生きた屍を引き連れ此方へと向かってくる。

「ちょっと、何所から湧いて出たのよ!」

 近付かれまいと史哉と秋月が応戦しているが、数は増えていく一方だ。

『承認しました』

 音声ガイダンスが聞こえて、振り返ると――――。

「嘘……」

 中からも、生きた屍達が出てこようと手を伸ばしてくる。

 彰は咄嗟に退き、難を逃れ、再びドアは閉まったが……。

「囲まれ……ましたね」

「どうするのよ! これ以上は、矢が!」

「チッ。ちょっとしか持って来なかったのが仇になったか。澪、俺の木刀を頼む」

 彰が、手に持っていた木刀を手放し、リュックの横ポケットを開く。そこから取り出した物の紐を引くと、けたたましい音が鳴り響いた。それを、彰が大学院の方へ投げると前に居た数人を除いて、そちらへと向かっていく。残っているのは、史哉と秋月の手によって死体へ戻った生きた屍と、新たに生きた屍となった先輩だけだ。その先輩も、史哉の放った矢によって、地に伏せた。

「どうにか、やり過ごしましたが、どうしましょうか?」

「塀の辺りに居る連中は、また戻って来る可能性があるだろうな。防犯ベルも、残りは五つだ」

 史哉と秋月の疲労度は高い。それに、クロスボウの矢も、少なくとも半分は消費した。戻りたくても、塀の近くには、二十人以上居る。

 施設内のドアの先に見えたのは、三人。きっと、目の前に居る。

「……史哉のクロスボウの矢は、秋月に持たせて。史哉は、俺の木刀を使ってくれるか」

「澪は、何で……。愚問でしたね」

 俺は、皮サックから剣鉈を取り出した。

「秋月が認証カードを使って、俺達三人で出入り口の奴を吹き飛ばして、走り込めないかな?」

「中に何人いるか、分からないのよ?」

 秋月の言う通りだが、他に道はない。

「否、案外行けるんじゃねえか。入ったら受付がある。その右に管理室があっただろ。そこに逃げ込めれば、どのぐらい奴らが居るかも分かるはずだ」

 「どちらにせよ、その案で行くしかないようです。奴らが戻ってきます」

 史哉の言葉で一斉に振り向くと、数人が此方へと歩き始めたところだった。

「じぁ、開けるわよ」

 小さな声で秋月が合図を出す。五秒程で音声ガイダンスが流れた。

『承認しました』

 三人で、入口を塞いでいる生きた屍を蹴り飛ばし、四人で駆け出した。どうやら一枚の認証カードで、一定時間、開いていたらしい。中に入り、吹き飛んだ生きた屍を、其々始末する。

 辺りを見回せば、真っ白な壁の至る所に、どす黒く変色した血痕が飛び散っていた。奥から歩いてきた生きた屍の首を刈り取り、振り向くと、彰が物言いたげな顔で俺を凝視していた。

「どうしたんだ?」

 声を掛けても、見ているだけで何も言わない。

「彰の言っていた管理室は、この部屋でしょうか?」

 受付には、秋月が始末したのか、頭に矢の刺さった女性が倒れている。

「あ、ああ。そこの部屋だ。奴らが居るかもしれねえから、気をつけろ」

 俺から目を逸らすように、彰は史哉へと足を向け、歩き出す。一体、どうしたんだろう。

「そんな呆けた顔して、どうしたのよ?」

 彰の後姿を見ていると、秋月に声を掛けられた。

「なんか、彰の様子が変だった」

「そう? いつも通りに見えるわよ? ほら、管理室へ行かなきゃ」

 秋月に急かされて、史哉と彰を追って管理室へ入る。思ったより広い空間で、モニターが大量に並んでいる。史哉はパソコンを操作して、彰は指示を出して、史哉は頷きながらパソコンを操作している。驚いていると、隣でモニターを見ていた秋月が、小さく声を漏らした。

「……お母さん」


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