四十四
第一鑑賞室で、仲間達と死んでいった生徒達に謝罪を済ませる。
そして、玄関ホールで支度をして、役員寮から出た。風の強さは変わらない。
「そうだ。生きた屍と狂乱者、進化してるから気をつけて」
「進化……ですか?」
後にいる史哉が、尋ねてくる。
「そう。進化としか呼びようがない。耳が聞こえる、跳躍力が高くなる、嗅覚が鋭くなる、走ってくる。色々と進化してる」
至る所に、首無し遺体があるが、見ないようにして進んだ。説明をするなら、高等部の出入り口でしよう。そう決めて歩みを早める。サクサクと進み、問題の場所に着いた。
「こっちの二人は、動きも緩慢で声も弱かったんだ。だけど、こっちの一人は五メートル程まで近づいたら、振り向いて走ってきた」
あの時は、驚いたが、咄嗟に動けたのは、きっと身体が動きを覚えていたんだ。
「ああ、声も凄かったな。その所為で、この二人に気付かれたんだ」
話をしながら、研究員の遺体を反転させる。認証カードを掴み取り、立ち上がった。もう一人の認証カードも取る。
管理システムが、どういう物なのか、分からない。図面にも、書かれていなかった。一枚で、入れるとは限らない。出来れば、四人分の認証カードが欲しい所だ。
「なあ、澪。一つ訊いていいか?」
真後ろから彰に声を掛けられ、振り向くと眉間に皺を寄せている。どうしたんだろう?
「構わないよ」
「これは、本当に澪がやったのか?」
ああ、彼方此方に散らばる遺体のことか。
歩きながらは……無理だよね。手っ取り早く、話してしまおう。
「意識のある状態で、刈ったのは、この三人だけ。後の人達のことは、覚えてないんだ。しっかりと意志を持って刈り取ったのは大学部の中だけだった」
「っ! そうか。なら、史哉の推論は正しかったんだな」
推論? 史哉へ視線を遣ると、困ったように話し始めた。
「生徒会長室までの状態を見て、自分なりに澪の心理状態を考えてみたのですよ。その結果、防衛本能が体を支配し、通常の意識が無いトランス状態になっているのではないかと、推論したのです」
確かに意識は無かった。完全に覚えていない。そんな、状態もあるのか。
「とりあえず、進もうか。研究施設の近くまでは居ないと思うけど、急いだ方がいい」
話を切り上げて、歩き出す。駐車場で研究員の遺体を見つけ認証カードを四人分、確保した。管理棟も、今のところ、静かだ。
購買部まで来て、違和感を感じた。なんだ? 何かが……。
「ねぇ、こんな遺体あったかしら?」
小声で秋月が、史哉に話しかけている。
そうだ、それだ! この遺体には、頭がある。高等部の運動場に向かって倒れているということは――――。
「澪! 隠れろ!」
俺が大学部を見上げ、何か光る物を見つけた時と、彰が叫んだのは、同時だった。
ガゥン
「っ!」
「澪!」
「谷崎君!」
俺の名前を呼ぶ二人と秋月の声が遠くに聴こえ、俺は何故か弾を避けていた。
「あいつ等、人間だろ! 何で撃つんだよ!」
「食糧盗ろうとしてるんだから当たり前だろ!」
「そんな酷いことするな」
「ごちゃごちゃと五月蝿い!」
「なっ!」
ガゥン
「ぐっ!」
「ははは、俺ってやるじゃん。これなら……」
「これなら、何? ねえ、先輩。この銃、自衛官の人達のだろ? なんで、先輩が持ってるんだ?」
弾を避け、そのまま全速力で駆け上がると、二階で仲間割れを起こした先輩が、仲間を殺す瞬間が見えた。その銃に見覚えがある。新堂さんが持っていた銃と同じ銃。東條さんの銃だった。
その銃は、そんな使い方をしていい銃じゃない。人を守る為の銃だ……。
「ひっ!」
真後ろから近付き、剣鉈を首に宛がうと声にならない悲鳴を上げた。
「答えろ。自衛官から盗ったのか?」
「い、いいだろ。死んだ奴が持ってても使わねえじゃねえか。っ!」
その言葉に、俺は手に持っている剣鉈へ力を入れる。すると、首から一筋の血が流れた。
「そ、そ、そんなに、この銃が欲しければ、くれてやるから。な、なあ、頼むよ」
銃が欲しいとか、そんな問題じゃない。だが……。
「そのぐらいにしておけ」
追いついてきた彰に、止められた。
「た、助けてくれ!」
「先輩、とも呼びたくありませんが、見苦しいですよ? 仲間を撃つなんて、随分と外道な真似をなさってるのですから、僕達の助けなど必要しないでしょう?」
「亡くなってるからって、人の物を勝手に盗むことは良くないわ。銃を置いて、消えてくださる?」
次々、畳み掛けるように言われ、とうとう先輩は銃から手を離した。それを、彰が床に落ちる前に取る。
「ほら、澪も放してやれ」
スッと腕の力を抜き、剣鉈を首から離すと転がるように先輩は駆けて行った。
「いきなり、走り出さないでください。追掛けるのが、大変でした」
あ。やってしまった。勝手な行動は、しないつもりでいたのに……。
「ご、ごめん。頭に血が上って……」
「そんなことだろうと思ったぜ。で、銃はどうする気だ?」
考えてなかった。返しに行きたいが、二人の眠る場所は、此処からだと遠い。
「……持って行こう。使うつもりはないけど、もしもの時の為に。使わなかったら、新堂さんの言った通り捨てて行く」
足元に散らばった弾倉を拾い集め、リュックへ仕舞う。この先の階段を下りれば、研究施設のすぐ近くだ。




