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四十二

 秋月が落ち着きを取り戻し、会話が出来ると判断を下し、再開する。

「俺たちは、研究施設に伯父さんの話を訊きに行くつもりだった。秋月も、俺たちと一緒に来てくれ」

「俺は、反対だ」

「僕も反対です」

 秋月への問いに答えたのは、彰と史哉だ。たぶん、反対されるだろうとは考えていたが、揃って即答だったな。

「この女は、澪を殺そうとしたんだぞ? 見捨てようともした。そんな女を連れて行こうと言うのか?」

 彰の言葉に、秋月が表情を強張らせ俯く。三人の間に、何があったのだろうか?

「それほど、拒む理由を教えて欲しい」

「彼女は、僕達を自分にとって有益な人間か否か、とても最悪な形で試したのですよ」

「俺は、購買部のトイレだった。史哉は……」

「大学部の食堂です」

 なるほど。生きた屍と戦わされたということか。ちらりと、秋月へ視線を遣れば、小さくなっている。自分が、酷いことをしたという自覚は、ある様子だ。

「……連れて行く。これは、決定事項だよ?」

「ここで、それを使うか?」

 二人は、盛大な溜息を吐き出したが、置いて行くという選択肢はない。

「堂々と命令しろって、二人とも言っただろ?」

 俺の推論通りなら、秋月がいた方がいい。いや、秋月にとっては、最悪の結果になる。

 それでも、避けて通らせることは、出来ない。

「秋月と史哉は、後列。俺と彰が前列。研究施設までは、数も少ないだろうけど、一応警戒しながら進もう。問題は、研究施設内だよね。隣の大学院も行ってないから、様子が分からないし……」

「施設内部の見取り図なら、持ってる。管理棟にあった」

 彰が、制服のポケットから、細かく折りたたまれた紙を放り投げて寄越した。

「……これ、文書管理室の金庫に仕舞ってある書類だよね? どうして彰が持ってるのかな?」

 にっこり笑って問うと、視線を逸らされた。まあ、今は非常事態だし、仕方がないか。

「やっぱり、認証カードが必要になるのか」

「おまけに、最下層だ」

 彰に言われ、図面を見てみる。確かにレベル4は最下層にあるが、そこへ通じる道は、エレベーターと非常用の階段しか見当たらない。職員の居住空間と所長室や管理室は、全て一階だ。

「実験施設は、封鎖されてるんじゃないかな? 一週間以上、食糧も無しに生きていられるとは思えない。それに、逃げる場所もないからね」

 それに、居住空間と研究施設は、完全に隔離できるように設計されているようだ。秋月の話通りだとすれば、相手は銃も所持している。それも、夜間に遠くから使用できる銃だ。そう容易く、生きた屍に殺されたりしない。出来れば、弾切れを起こしていて欲しいが、そう上手くもいかないだろう。

「とりあえず、向かおうか」

 皆に声を掛けて、立ち上がる。

 伯父の命が何時まで持つか。まあ、相手の命も同じだけど。実際、既に二人とも死んでいる可能性の方が高いような気もする。

 三人へと視線を向けると、何故か秋月が立ち上がろうとしない。黙って見ていると、秋月が口を開いた。

「私。……私、此処で待ってるわ。ちゃんと大人しく――――」

「さっきは、来てくれって言ったけど、来いという意味での来てくれだよ。決定事項って話したよね?」

「い、行きたくない!」

 もしかして、秋月は気付いてる?

 テーブルを回り、秋月の目線に合うように、腰を屈める。彼女は、怯えたような視線で俺を見た。

「秋月の。……君の母親が居るかもしれないから、行きたくない?」

「っ!」

 秋月の目が見開かれていく。ああ、図星か。

「澪、どういうことだ?」

 横で見ていた二人には、意味が分からなかったらしい。説明もしてなかったから、当たり前か。俺は、屈めていた背を伸ばし、二人に向き直った。

「簡単な事だよ。彼女の母親は、恐らく死んでない」

 同じような特徴のある人物と見誤ったか、偽装かは、俺にも分からない。

「ですが、死亡診断書があるんですよね?」

「そう。でも、秋月は、死体確認をしていない」

 気持ちは、理解できなくもないけど写真すら見ていない。秋月は、項垂れていた。

「っ! まさか」

 漸く、俺の言いたいことを、彰が察したらしい。

「その、まさかだよ。今回の件は、たぶん彼女の母親が関わってる」

「秋月の母親が、ですか?」

 確かに、死んだはずの人間が入国するのは容易ではない。だけど、彼女の母親しか出来ないことがある。

「母が作ったサンプル。その言葉で、気付いたんだ。政府の人に、サンプルの扱い方を教えた人物がいることにね。極秘扱いのウイルスだよ。教えられる人間なんて、限られてくる。秋月の両親のどちらかだと考えていた。だけど、父親が止めたがっていたと秋月は話したから、恐らく母親だと推測したんだ。それに、秋月の母親は、寄生生物の化石に執着している。奪われた寄生生物の化石が、此処にあることを知ったら、取りに来るよね?」

 それを伯父さんは、逆に利用したんだ。全てを終わらせるために。伯父さんが自分を責めている理由。最初は、美咲さんと和彦さんのことかと思っていたけど、寄生生物の化石を見つけてしまったことを後悔していたら、違ってくる。

 美咲さん、和彦さん、海外の研究所の人、秋月の父親、そして佐藤 芳子。寄生生物の化石が見つかりさえしなければ、皆の運命を狂わせることは無かった。そう、思ってしまったんじゃないだろうか?まあ、本人に訊かなければ、真相は分からないままだ。

「秋月が、嫌だと言っても来てもらうから」

 未だ、項垂れている秋月に告げれば、小さく頷いた。

 

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