三十六
静まり返る玄関ホール。原因を作り出したのは、俺の告白。俺の中の何かが弾けて、俺は変わってしまった。それを二人に、知ってもらいたかった。だから、止められても押し切って、言葉にした。
彰と史哉は、向かい側のソファに座り、俯いていて表情は見えない。
「自衛隊は、一週間前に派遣されてた」
涙が止まり、ポツリポツリと話す。
「学院を包囲して、学院から出てきた人間を殺すように指示されたのを、東條さんの小隊の上官が拒否したんだ」
東條さんの上官は、東條さんと同じような考えの持ち主なんだろう。だから、高官の要望を拒否した。
「そしたら、政府の人が上官の脚を撃って、首に注射器みたいな物を刺されて。そして、助けようとした部下に噛み付いて……。そこからは、学院内と同じだったみたい。何人の自衛官が派遣されていたのか知らないけど……、少なくとも、二つの分隊が全滅した。新堂さんと東條さんで、皆を送ってあげたって話してた」
そういえば、今更だけど、秋月が居ないことに気付いた。
「なあ、彰。秋月さんは、どうしたの?」
「ああ、あの女なら寮母室に閉じ込めてある」
閉じ込めてって……。感染したんだろうか?
「余りにも素行が悪いので、閉じ込めてあるだけです。感染はしていないので、安心していいですよ」
「素行が悪いって……。何か、あったの?」
二人とも顔を上げて、溜息を吐いた。
「お前、その二人に銃を持たされたな?」
彰に問われて、素直に頷いた。まさか、その銃を秋月が使ったのか? でも、閉じ込めてあるということは、死んでないんだよな?
意味が分からず、彰の言葉を待つ。もう一度、盛大な溜息を吐いて、彰が口を開いた。
「役員寮に帰り着いて、直ぐに澪の自室へ行って、シャワーを浴びさせていた。史哉は、澪の着替えを準備した後、俺の着替えを取りに行ってもらった。勿論、俺の服を取りに行く前に、シャワーを浴びるように指示してな。その間に、あの女は、お前の持っていたリュックを探ったらしい」
その言葉に、今度は俺が青褪める。
「リュックには、サバイバルナイフとかも入ってて……」
「ええ。彼女が澪のリュックから持っていった武器は、全て取り戻しましたよ。ただ、銃は弾が失われてしまったので、意味の無いものになってしまいましたが……」
史哉の言葉にホッとして、首を横に振る。
「銃は、新堂さんから『お守り』として持たされたんだ。使わなかったら捨てろと言われてたしね。だから、構わないよ。それより、二人に怪我は無かったんだよな?」
「してねえよ。あの女は、勝手に全弾入ってると思い込んでたんだろ。威嚇射撃のつもりか、床を撃ったんだ。その後は、撃とうとしても弾が発射されないもんだから、真っ青になってたな」
その時の様子を思い出しているのか、二人ともクスクスと笑っている。
「まあ、簡潔に言うと脱出の鍵が見つかったんだが、俺たちが動こうとしない。だから、その鍵を奪い取ろうとして銃を使ったが、失敗して閉じ込められたってことだ」
そうか。脱出の鍵が…………。
「脱出できるのか!」
驚いて、声を上げると何故か大笑いされた。
「何で笑うんだよ!」
「鍵ってのは、お前のことだよ」
「……へ? 俺が鍵? なんで?」
益々、意味が分からない。首を傾げると余計に笑われて、腹が立ってきた。
「笑ってないで、ちゃんと説明しろよ!」
「す、すみません。余りにも、無邪気なお顔をなさったので……。厳密に言えば、澪の首に下がっている鍵が必要だったんですよ」
なんだ。地下倉庫の鍵の事か。それなら、そう言えば良いものを、ややこしい言い方をするから話しが可笑しくなるんだ。大体、無邪気って、なんだよ。
ああ、そう言えば地下の話は、東條さんも話していたな。
「下水道が在るんだよな? そこへ行くのに、鍵が必要だったのか?」
役員寮には、そんな扉は見当たらない。きっと、図書館の地下倉庫に入口があるんだろう。2人に問えば、怪訝な顔をして見合っている。
「下水道の話、何所で知ったんだ?」
「東條さんの上官が、東條さんに話をしたらしいよ。ああ、そうだ。それで、一番奥の下水道を使って外に出ろって言われた。そこを使えば、包囲網の外へ出られるからって。……どうしたんだ?」
彰は、頭を抱え項垂れるし、史哉は手を額に当て天井を仰ぎ見ている。何故、そうなったのか分からないが、俺の話に関係があるんだろうか?
「まあ、確かに利益は見つけ出せたようだな。運が良いのか、悪いのかは分からねえが」
「此方の方が、有益な利益ですし、感染もしていなかったのですから、大目に見るしかないでしょうね」
そのままの体勢で、何故か、飛び出した時の話を始めてしまった。
自分の首には、まだ鍵付きの鎖が掛かっている。それを取り出して、中央にあるテーブルへ置いた。
「鍵は、彰に渡すよ。それを使って、三人で逃げて欲しい」
「どういうことです? 澪も一緒に――――」
「行かない。まだ、やらなきゃならないことが出来たんだ」
言葉を被せるように言うと、項垂れていた彰が、顔を上げ、テーブルへ置いた鍵を投げ返してきた。
「此処を出る時は、澪も一緒だ。それまで、鍵はてめえが持ってろっ!」
後半は怒鳴り声で、思わず首を竦める。史哉を見ても溜息を吐かれるだけだった。
「どうして、そういう結論になったのか、そして、澪のやらなければならないという内容も、全て話してください。出来なければ、気絶させてでも連れて行きます」
史哉の目は、真剣で、本当にそうするつもりで言っているのだと伝わってくる。
夢の話だ。信じてもらえるか分からない。それでも、話さなければ研究室に行けなくなる。
俺は、悩んだ末に、口を開いた。




