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三十二

 たった、数時間。

 それこそ、会話をしたのは、短い時間だった。それでも、新堂さんも東條さんも俺を助けられて良かったと、誇らしげに、嬉しそうに言ってくれた。

「何で……何で、何でだよっ。なんで、あんな良い人達が死ななきゃなんないんだよっ! そんなの……」

 あんまりだ。

 俺なんかより、ずっと辛かった筈なのに。

 顔色も相当悪くて、それでも、笑って送り出してくれた。最期まで、俺を気遣ってくれた。

 あの銃声は、二人が仲間の元へ逝ったという証。

 人間を襲う側にならなかった証。だのに、何故、こんなに苦しい? こんなにも、心が引き裂かれそうになるんだ。


 涙で視界が歪み、止まりそうになる脚を無理やり動かして、階下へ向かう。そして、銃声に導かれるよう現れた生きた屍達に足を止めた。

 虚ろになった(まなこ)で、揺ら揺らと身体を動かし、時折、呻き声を上げながら 唯々餌を探し求める……哀れで悲しい存在。

「……お前たちの、所為だ」

 違う。彼等も被害者だと理解している。でも、もう、俺の心は限界だった。

「お前達の所為で、皆……皆、死んだんだっ! 赦せないっ、赦さないっ! お前達の首……ねこそぎ、刈り取ってやるっ!」

 宣言するように叫び、腰から剣鉈を取出すと、駆け出した。そして、素早く脚を叩き折って転ばせ、その背中に乗って、首に剣鉈を叩きつけるようにして引き千切っていく。

 

 もう、何体目なのかすら、分からない。感覚が麻痺したのか、心が麻痺したのか……その両方だったのかもしれない。

 しっかりと意識があるのに、何の躊躇いもなく生きた屍や狂乱者を手に掛けている。昨日、洗濯した制服は瞬く間に血塗れに戻っていた。

「うがあぁぁ……」

「遅いんだよ」

 緩慢な動きの奴らの中に、チラホラと混ざる進化型。進化型には、走る奴と跳ぶ奴がいる。そして、やっと分かった。

「音が聞こえるだけじゃないんだ? お前ら、鼻も利くんだね?」

 窓から外を見れば、あれだけ晴れ上がっていた空が、どんよりとした雲に覆われて、今にも雨が降り出そうとしている。そして、微風というには強すぎる風。

「台風でも来るのかな? でも、風のお蔭で、臭いが飛ばされて丁度いいよね」

 生きた屍に話しかけても、返答はない。

 当たり前か。死んでいるんだから。大学の方は、随分と人が残っていたようだ。その所為で、切りが無い。

「剣鉈、終る頃にはボロボロだろうな」

 パッと見ただけで、刃が何ヶ所も欠けていた。柄の部分も血液でヌルヌルして、油断すると剣鉈を飛ばしてしまいそうだ。

「柄にテーピングテープでも巻くかな」

 ああ、傍から見たら、きっと今の俺は、怖いだろうなあ……。生きた屍を刈り取りながら、独り言なんて言ってるし。かなり、疲れてきたけど新堂さんや東條さんに生きろと言われて、死んだら怒られるだろうしな……。


 階下に下りる毎に数が減ってきて、やっと1一階へ辿り着いた時には、剣鉈も制服もボロボロになっていた。位置的には、カフェから離れた出入り口にいる。汚れて見えなくなっている腕時計を、どうにか見えるようにして見詰めた。

「……二時間、か。流石に、カフェに居るわけないか」

 口に出すと、思わず力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


 そうだ。どうして会えると思ってしまったんだろう?

 俺は、こんなことになった原因を作り出した男の甥なのに。ここに残っていた人達を、あんな風に変えてしまったのに……。

「東條さん……、俺の伯父さんの所為でこんなことになってるのに、本当に生きてて良いのかな?」

 ポツポツと降り出した雨を仰ぎ見るように、逝ってしまった東條さんに問い掛けるように、言葉を紡ぐ。

「俺の居場所……。此処にしか、無かったんだ。帰る場所も……もう、無いんだ。斉藤の事、大嫌いだったけど……俺達の知らない色々な情報、沢山知ってて……。荒田は、そんな俺や斉藤を上手く纏めてくれてて…………。史哉が、名前、呼んでくれて嬉しくて…………。彰……、ごめん。やっと、やっと思い出せたよ。けど……もう、無理っぽい……や」


 これ以上、身体を支えることも出来なくなってきて、俺の身体は地面へと倒れていった。


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