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二十五

 何処をどう走ったのか、覚えていない。何時の間にか、暗闇の中、高等部の生徒会室で両膝を抱え丸まっていた。

「っ……」

 秋月の話を聞いて、そのまま役員寮を飛び出した。後ろで、彰や史哉の叫ぶ声が聞こえたけど、止まらなかった。

否、二人に話を聞かれて、怖くて止まれなかったが正解だ。


 そして、そこから先の記憶が飛んでいた。

 飛び出したのは、午前中。今は、夜中だ。

 身体へ目を向ければ、着替えたばかりだった制服は、赤黒く腐臭のする液体で汚れ、あちこちが裂け、手にも赤黒い液体がこびりつき、悪臭を放っている。

 そして、俺の(うずくま)る先には、同じように変色し、肉片のような物体が付着した剣鉈が転がっていた。

「……ははは。殺しながら、ここへ来たのか」

 我ながら、冷めた声だなと思った。

そういえば、斉藤を殺した時も、こんな感じだった。感情が抜け落ちたような、機械的な声。

「洗い流さなきゃ、感染するって言ってたよな」

 史哉が言って、彰が体を洗い流してくれて……。

 こびりつくまで放置しているのに感染していないのは運がいいのか、それとも、もう既に感染して、頭がおかしくなっているのか。その判断すら出来ない。

 よろよろとした足取りで立ち上がり、生徒会室の奥にある仮眠室へと向かった。

「まだ、使えるのか?」

 今では、物置として使用している仮眠室。そこには、パイプベッドやテーブルセット。そして、ありがたいことにシャワー室が備えてあり、何代か前の役員たちまで利用してきた物だ。

 購買用に置かれている新品のジャージと体操服一式、タオル、薬用ハンドソープを拝借してシャワー室へ入る。給湯器のスイッチを押すと、電源ランプが点いた。どうやら、使えるらしい。


 汚れきった制服は、ゴミ袋へ捨てることにした。制服は、購買用を拝借しよう。下着や靴下、靴に至っては替えが無い。洗って使うしかない。

 そのまま、飛び出たから木刀もリュックもない。

 辛うじて持ってこれた物は、剣鉈と腕時計、それに携帯用小型無線機。今は、電源を落としてある。剣鉈と腕時計は、濡らしたタオルで綺麗に汚れを落とせば、まだ使えそうだ。

「……無線機は、必要ないか」

 ゴミ袋へ捨てようか、迷った。今更、帰れるはずがない。許されるはずがないのだから。結局、悩むのは後回しにして浴室へ入ることにした。


 シャワーを出し。一番汚れていた手を洗い流した。薬用ハンドソープを手に出してゴシゴシと擦り合わせるが、なかなか泡立たない。(すす)いでは洗う。それを何度も繰り返して、やっと肌色が見えてきた。

「頭は……タオルで拭いてから、洗うんだったか?」

 しかし、乾いていては無意味な気がする。水道に切り替え、少しずつ固まりを解すように湯を掛けていく。やはり、何度も洗わなければ汚れは落ちない。目と口を固く閉じて、洗顔もする。後は、体だ。

 腕と脚、背中には、プロテクターフィルムが貼られている。最後に洗う方が良いだろう。さすがに衣類に包まれていた胴体部分は汚れが少ない。腕と脚は、一度プロテクターフィルムの上から洗い、汚れを取り除いてから、もう一度洗いなおした。擦ると多少痛むが、感染するより痛みを堪えた方がずっと良い。

 シャワーを済ませ、下着の代わりに体操服を着る。違和感は否めないが、汚れた物を着るのは嫌だった。

 洗濯を済ませ、シャワー室を出ると日が昇ろうとしていた。

「随分と時間が経っていたんだな」

 ポツリと呟いて、パイプベッドに寝転がる。

「俺が、薗村の甥……」

 本当の話なのだろうか?

 秋月の話に、驚きと動揺で逃げるように走り出してしまった。よくよく考えると早計だったかもしれない。

 どうして、俺の出生を知っていたのか訊いておくんだった。素直に教えてくれたかは怪しいけれど。


 幼い頃の記憶がない俺は、いじめのこともあり、中一の夏休みに両親に自分の出生について尋ねた。

 自分は、本当に孤児なのかと。本当だと知った時のショックは、今でも忘れられない。両親のことを聞いても、捨て子だから両親は分からないと聞かされ、途方にくれた。


「とりあえず、生存者の確認が先か」

 今は、出生云々より、そっちが優先すべき事柄だ。史哉には、利益を探すと言っておいたが、まず、生存者が居なければ意味がない。とりあえず、校舎内の確認から始めることにした。


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