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二十四

 俺の耳を塞ぐ両腕を外し、彰の目を見据える。

「二人が教えなかった話は、このこと?」

 その目が、諦めたように伏せられた。

「……」

 その沈黙は、肯定なんだろうな。


 秋月は、私たちと言っていたが、恐らく二人は秋月が提案したことを拒否したんだろう。だから、俺に聞かせたくなかった。

 納得していると、片膝を床に着け座っていた史哉が、俺の視界を遮るように立ち上がり秋月へと振り返った。

「僕は、見捨てるなら貴女だと言いましたよね? 昨夜のことなのに、もう忘れたのですか? そうなら貴女の耳は、単なるお飾りのようですね?」

「あら、そんな話したかしら。私は、飯田君もリスクがあると言ったのは覚えてるけど、その話は知らないわ」

「随分と自分勝手な耳を持っていらっしゃるようですね? 確かに、リスクがあることは否定しません。ですが、澪を見捨てるつもりはないとも言いましたが?」

「ふふふ。だから? 見捨てるつもりが無いだけで、リスクは高いって思ってるんじゃない。だったら、谷崎君なんて要らないじゃない。現実をちゃんと見なさいよ」

「現実を見ていないのは、貴方です。協調性の無い人間は、見ているだけで苛々するものなのですね。初めて知りましたよ」

「あら。私は、谷崎君を見ているだけで苛々するわ。そして、ソレを守ろうとする二人を見て、余計に苛々するの。そんな役立たずに、優しくしてあげる必要なんてないのに」

「澪は、役立たずなどではありませんよ」

 これ以上、言わせたら駄目だ。

「史哉。もう、いい」

「いい筈がない――」

「黙れと言っている!」

 俺が怒鳴ると、史哉も言葉を止めた。

 庇ってくれるのは、嬉しい。だけど、このままじゃ全滅するだけで、無意味だ。ゆっくりとソファから立ち上がり、史哉の前に出て秋月と対峙する。

「俺にどうして欲しい? 何を望む?」

「死んで……って、本当は言いたいけど、可哀想だから、ここから出て行って欲しいわ。勿論、彼らを残してね。二人は、私に必要な存在だもの。強くて、賢くて、見目も良くて、本当に素晴らしい存在よね」

 クスクスと笑う秋月に顔を(しか)める。こんなことを言う秋月が狂っているように見えた。

「俺は、守られるつもりはない。戦える」

 ガチャリと音がして、俺にクロスボウが向けらる。

「ただのつもり、でしょ? 今だって、充分守られてたじゃない」

 否定は出来ない。史哉も彰も、俺を守ろうとしてくれていた。

「私は、守られる気はないし、守る気もない。まあ、飯田君や周防君が居てくれたら、私が戦う必要はないわよね。とっても強いから。私は、ちゃんと共闘できる相手だけを残しておきたいの。谷崎君が居たら、二人とも谷崎君を守ることを優先してしまうでしょ? つまり、それだけ、私の危険が増えるってこと。そんな存在は要らないのよ」

 つまり、俺は共闘するに値しないと言いたいのか。

「リュックと武器を持って行くことは許してあげる。まあ、使う暇もなく殺されるでしょうけどね。それから、周防君と飯田君に私を殺さないと誓わせてくれるかしら? このまま谷崎君を行かせると、居なくなった途端、殺されそうだもの」

 秋月の視線が、俺の後ろへ向けられる。それに伴い、俺も振り返った。

 二人とも、視線だけで人が殺せそうだよ。

「周防君も飯田君も動かないでね。私って、小心者だから動かれると驚いて谷崎君を撃ってしまうかもしれないわ」

 クロスボウは、二人に対しての牽制のつもりか。俺の真後ろまで歩いてきた秋月が、クロスボウの先を俺の背中へ当てた。

「ほら、さっさと誓わせなさい」

 命令の言葉を聞いて、静かに息を吐き出す。

「……殺したければ、そのまま殺せばいい」

 荒田に言ったことを違えてしまうが、迷惑をかけるぐらいなら、それも構わないような気がした。それに、秋月が言っていることも(あなが)ち間違いじゃない。

 彰は、俺を庇う。史哉だって、優しい奴だから、見捨てることなどできない。俺が、足手纏いなのは事実だ。

「あんた、馬鹿? ああ、なら、飯田君か周防君に死んでもらおうかしら」

「っ!」

 驚いて振り返ろうとすれば、矢で背中を強く押される。

「さっき言ったばかりでしょ? 私が殺されるって! だから、私があんたを殺すことは出来ないのよ! 友達が大事なら、大人しく私の言ってることに従いなさいよ。この役立たず!」

 今の状況で、秋月からクロスボウを取り上げることは難しい。誤射されれば、間違いなく彰や史哉に矢が向かう。俺は、激昂する秋月に従うことにした。

「俺は、2人に比べれば武術の経験が少ないし、劣るだろうけど、一般生徒に比べれば身を守る術を知っている。だから、彼女に手を出すな。……二人に人間まで殺させたくない」

 狂乱者や生きた屍を手に掛けるのと、本当に生きている人間を殺めるのとでは、雲泥の差がある。甘い考えかもしれないが、殺人者になって欲しくない。

 そう……。無力化できれば、それでいい。俺が居なくなれば、秋月は武器を手放すはずだ。

「それに、一人なら利益を見いだせるかもしれない。生存者が居る可能性もある。探すなら、一人の方が危険も少ないだろう。外に出るのは、賭けかもしれないけど……俺は行く。だから、後を頼む」

 史哉、頼むから言葉の意味に気づいてくれ。祈るような思いで史哉を見る。数秒の沈黙。そして、溜息を吐かれた。

「解りました」

「史哉!」

 史哉の返事に、彰が怒声を上げた。それを史哉が手で制し、俺の顔を見つめる。

「澪に行くなと言っても、彼女がそれを許さないでしょう。ここは、僕たちが折れるしかありません。ですが、澪。絶対に無理をしないと約束してください。利益や生存者を探すよりも、自分を優先してください。薄情と言われるかもしれませんが、彰や僕は、見知らぬ生存者より澪の方が大事です。危険だと判断したら、生存者がいても逃げてください」

「解った。約束する」

「彰が暴走しそうで少々怖いですが、任せてください」

 どうやら、言葉の意味を理解してくれたらしい。史哉なら、彰にも説明してくれる。

「これで、満足か?」

 振り返らずに秋月へ問うが、尚更、クロスボウを押し付けてきた。

「周防君が、まだでしょ?」

 確かに、彰は史哉の名前を呼んだだけで、何も言っていない。

「彰」

 名前を呼ぶと、頭を横へ振る。

「行くな」

 何時もの強い眼差しが、なりを潜めて不安げに揺れている。彰に、こんな顔をさせたかったわけじゃない。

「彰、聞いて。史哉の言うことを守って欲しいんだ。史哉だって、任せてくださいって約束してくれただろ? だから、彼女を殺すな」

「女の話はどうでもいい。大体、澪が出て行く必要なんてねえだろうが!」

 もしかしたら、今生の別れになるかもしれない。彰や史哉も、そう思ってるんだろうな。

「……ありがとう、彰。不謹慎かもしれないけど、その気持ちが凄く嬉しいよ。でも、彼女を殺さないで。俺の為に、彰や史哉の手を穢したくない」

 長い沈黙。眉を顰めたまま、彰が頷いた。秋月の目にも、彰が頷いた姿が映ったらしい。

「じゃあ、私は谷崎君を玄関へ連れて行くから、二人は荷物を取ってきて。もし、変な動きを見せたら、谷崎君が死ぬかもしれないわ」

 急かすように背中を小突かれ、玄関へと歩き出す。彰たちも渋々といった様子で動き出した。

「ほんっと、憎たらしい。あんたの言うことなら下僕みたいに言うこと聞くんだから」

 それが、彰たちのことを言っているのだと直ぐに気づいた。

「……それは、秋月が武力に物を言わせ、無理矢理そう仕向けただけだ。それから、勘違いするな。彰と史哉は、掛け替えのない友人だ。侮辱するような真似は、誰であっても許さない」

「その口調だと、弱弱しい雰囲気が一掃されるわね。すっかり騙されるところだったわ。そんな風にしてると役立たずに見えないもの」

 クスクスと、笑い声が聞こえてくる。好きに言えば良い。どちらも俺であることに変わりない。

 ただ、彼女の行動に、疑問を感じた。俺を役立たずと罵るのは、理解できる。だが、それならば襲われた時の囮にでも使えるはずだ。何故、此処まで執拗に追い出すことに拘る? それに、俺が殺せと言った時の言葉。

「……殺したい程、憎んでいるのか?」

 呟きが彼女の耳にも届いたらしい。背中に当てられたクロスボウの先端が僅かに揺れた。

「ふーん。もう、答えに辿り着いたの。頭が良すぎるのも考え物ね」

 どうやら、俺の導き出した答えが正解らしい。しかし、たった二日間の接触で憎まれる程のことがあったか? 二日といっても、共に行動した時間は少ない。ならば、日常で何かあったのかと自身に問うが、それも見当がつかない。

「考えても無駄よ。あんた自身が私に何かしたわけじゃないもの」

 その言葉に困惑する。関係ないのに、憎まれているのか?

「この学校に来て驚いたわ。本当に甥っ子まで居るなんて思ってなかったし。まあ、あの男も自分の甥っ子が居るなんて知りもしないでしょうけどね」

 あの男? 甥っ子? 一体、誰の話をしているんだ?

「甥っ子が居るって知ってても、こんな実験したのかしら? ふふっ。自分の実験で身内が死ぬんですもの。いい気味よ。私的には、ざまぁ見ろって感じだわ」

 話が進むうちに、彼女の言っている男の正体が判り、血の気が引いていく。

「あんたって、あの男に似てるから、見てるだけで気分が悪くなるわ。もう、我慢の限界だったの」

 そんなはずがないと否定したくとも、俺は、自分の出生について何も知らない。知りたくても知ることが出来なかった。それを、彼女は知っていると言うのか?

「俺は……」

「あんたは、私の両親を殺した薗村 俊夫の妹、薗村 美咲の息子。私に憎まれて当然の人間よ」

 世界が闇に閉ざされたような気がした。


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