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第97話 カラオケ大会

 夏祭りのメインステージ裏。


 楠市長やスタッフたちは、突然のトラブルに頭を抱えていた。


「市長、本当に市民参加型のカラオケ大会をやるんですか?」


 スタッフが不安そうに尋ねる。


 楠市長は正義へ視線を向けた。


「桜木君」


「本当にうまくいくかね?」


 正義は少し緊張しながらも、真っ直ぐ頷く。


「はい」


「歌が上手い人を集める必要はありません」


「市民の皆さんに楽しんでもらうことが一番大切です」


「きっと盛り上がります」


 楠市長は静かに考え込む。


 数秒後。


 力強く頷いた。


「よし!」


「桜木君を信じよう!」


「急遽、市民参加型カラオケ大会を開催します!」


「はい!」


 スタッフたちは一斉に動き出した。


 ステージでは急ピッチで準備が始まる。


 音響担当。


 司会者。


 受付係。


 全員が持ち場へ駆け出していく。


 凪は目を輝かせた。


「なんかワクワクしてきた!」


 栞も小さく微笑む。


「成功するといいですね」


 数分後。


 司会者がステージへ上がった。


『皆様、お待たせいたしました!』


『メインゲスト・柿沢栄三郎さんは交通渋滞のため、到着が遅れております』


 会場が少しざわつく。


 しかし司会者は笑顔を崩さない。


『そこで!』


『到着までの間、特別企画!』


『市民参加型カラオケ大会を開催いたします!』


 会場から驚きの声が上がる。


「えっ!」


「カラオケ大会!?」


「飛び入りでええの?」


 司会者は元気よく頷く。


『もちろんです!』


『年齢は問いません!』


『歌が好きな方ならどなたでも大歓迎です!』


『優勝者には、楠市長から素敵な景品もご用意しております!』


 その一言で、会場の空気が一変した。


「面白そう!」


「俺、歌う!」


「私も出たい!」


 受付には、あっという間に長い列ができ始める。


 楠市長は思わず目を丸くした。


「もう、こんなに集まっとるのかね」


 正義はほっと胸を撫で下ろす。


「良かった……」


 そして最初の参加者が呼ばれる。


『記念すべき一人目は――小学三年生の山田ゆうと君です!』


 小さな男の子が、少し緊張しながらステージへ上がる。


「頑張れー!」


 会場中から温かい拍手が送られた。


 曲が流れ始める。


 一生懸命歌うその姿に、自然と手拍子が広がっていく。


 歌い終えると、会場は大きな拍手に包まれた。


「上手やったでー!」


「かわいい!」


 男の子も照れくさそうに笑った。


 その様子を見ていた凪が、嬉しそうに笑う。


「成功やな!」


 栞も安心したように頷いた。


「はい」


「皆さん、本当に楽しそうです」


 楠市長は笑顔で正義の肩を軽く叩く。


「桜木君」


「君のおかげだわ」


「祭りの笑顔を止めずに済んだ」


 正義は照れくさそうに笑う。


「僕の提案だけじゃありません」


「参加してくださる皆さんのおかげです」


 楠市長は満足そうに頷いた。


「その考え方が、君らしいね」


 夏祭りは、思いもよらない形で新たな盛り上がりを見せ始める。


 そして、その笑顔の輪は、やがて会場全体へと広がっていくのだった。

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