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第96話 緊急事態

 夏祭りも終盤を迎えていた。


 教会のバザーも大盛況。


 メインステージでは、この後行われる特別ゲストのライブを心待ちにする市民たちで溢れている。


 今年のメインゲストは、人気演歌歌手・柿沢栄三郎。


 楠市長とは若い頃からの親友であり、この夏祭りには毎年、友情出演という形で駆け付けてくれる、この祭りには欠かせない存在だった。


 午後四時。


 開演まであと三十分。


 その時だった。


 楠市長の携帯電話が鳴る。


「もしもし、栄三郎さん?」


 電話を受けた市長の表情が、みるみる曇っていく。


「……そうかね」


「それは仕方ない」


「気を付けて来てちょう」


 電話を切ると、市長は大きく息を吐いた。


「困ったなぁ……」


 スタッフが慌てて駆け寄る。


「市長、どうされました?」


 楠市長は困ったように首を横へ振った。


「栄三郎さんが、高速道路の渋滞に巻き込まれたそうなんだわ」


「到着まで、あと二時間は掛かるらしい」


「えっ!?」


 スタッフたちは顔色を変える。


「そんな……」


「メインステージに間に合いません!」


「どうしましょう!」


 会場は一気に慌ただしくなった。


 市民の多くは、柿沢栄三郎の歌を楽しみに集まっている。


 このままでは、祭り最大のイベントが中止になってしまう。


 楠市長は腕を組み、申し訳なさそうに呟いた。


「市民の皆さんを、がっかりさせるわけにはいかんだわ……」


「せっかく楽しみに来てくれとるのに」


 重たい空気が流れる。


 その様子を、教会のバザーブースから見ていた正義は、小さく息を吸った。


 そして意を決し、市長たちのもとへ歩み寄る。


「楠市長」


 市長が顔を上げる。


「どうしたかね?」


 正義は少し緊張しながらも、真っ直ぐ市長を見つめた。


「もしよろしければ……」


「メインステージが始まるまでの時間を繋ぐ方法があります」


 スタッフたちの視線が、一斉に正義へ集まる。


「その方法とは?」


 正義は小さく頷いた。


「市民参加型のカラオケ大会を開きませんか」


 その一言に、その場にいた全員が驚きの表情を浮かべた。

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