第98話 笑顔のステージ
市民参加型カラオケ大会が始まると、会場は予想以上の盛り上がりを見せていた。
小さな子ども。
学生。
親子。
会社員。
おじいちゃん、おばあちゃん。
年齢も職業も関係ない。
次々と市民がステージへ上がり、自慢の歌声を披露していく。
会場中から自然と手拍子が起こる。
「頑張れー!」
「いいぞー!」
歌い終えるたび、大きな拍手が響いた。
栞は司会を担当していた。
「ありがとうございました!」
「とても素敵な歌声でした!」
笑顔でインタビューをしながら、会場を盛り上げていく。
一方、正義は受付や進行を担当していた。
「次の方はこちらへお願いします」
「マイクの準備できています」
参加者を案内しながら、ステージが止まらないよう走り回る。
すると。
受付へ一人の少女がやって来た。
「歌いたいです!」
正義は笑顔で受付を済ませる。
「ありがとうございます」
「順番が来ましたらお呼びしますね」
その姿を見た凪が、急に目を輝かせた。
「正義!」
「はい?」
「あたしも出る!」
「えっ?」
「飛び入り参加や!」
正義は思わず苦笑した。
「仕事はどうするんですか?」
凪は親指を立てる。
「一曲だけや!」
「すぐ戻る!」
「いや、そういう問題じゃ……」
そのやり取りを聞いていた栞がくすっと笑う。
「一曲くらいなら、大丈夫ですよ」
「司会は私が繋ぎますから」
「ほら!」
「栞もええって言っとる!」
凪は嬉しそうに受付用紙へ名前を書いた。
しばらくして。
『続いての挑戦者は、聖フェリス学園二年生、日向夏凪さんです!』
会場から拍手が起こる。
「頑張ってー!」
凪は元気よく手を振りながらステージへ上がった。
「こんにちはー!」
その明るい笑顔だけで、会場が和やかな空気に包まれる。
イントロが流れる。
凪は元気いっぱいに歌い始めた。
決してプロのような歌声ではない。
それでも、全身で楽しそうに歌う姿に、観客も自然と笑顔になる。
手拍子が広がり、子どもたちも一緒に歌い始めた。
歌い終えると、会場は大きな拍手に包まれる。
「ブラボー!」
「元気もらった!」
凪は照れくさそうに笑った。
「ありがとー!」
ステージを降りると、正義が苦笑しながら迎える。
「盛り上がりましたね」
「やろ?」
「あたし、アイドルになれるかもしれん!」
「それは言い過ぎです」
二人は思わず笑った。
栞もマイクを握り、笑顔で締めくくる。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「まだまだ参加者を募集しています!」
「ぜひ、一緒に夏祭りを盛り上げましょう!」
その呼び掛けに、また新たな参加者が受付へ集まり始める。
予定外に始まったカラオケ大会。
しかし今や、それは夏祭りを代表するイベントの一つになりつつあった。
歌の上手さは関係ない。
大切なのは、みんなで笑い、楽しむこと。
ステージには、この日一番の笑顔が溢れていた。




