第90話 来年も
花火大会が終わり、帰路につく人々で駅前は賑わっていた。
三人も人の流れに合わせながら、ゆっくりと歩いていく。
夜風が心地よく、火照った身体を優しく冷ましてくれた。
「楽しかったなぁ」
凪が満足そうに大きく伸びをする。
「今日は食べ過ぎましたね」
正義が苦笑すると、
「祭りやからええねん!」
凪は胸を張って答えた。
栞も思わず笑う。
「ふふっ」
「凪ちゃんらしいですね」
三人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。
しばらく歩いたところで、凪がふと立ち止まる。
「なあ」
「また来年来ようや」
その一言に、栞は優しく頷いた。
「はい」
「来年も、三人で来たいですね」
二人の視線が正義へ向く。
「桜木君は?」
正義は少しだけ立ち止まり、夜空を見上げた。
さっきまで夜空を彩っていた花火はもう消え、そこには静かな星空だけが広がっている。
今年の夏休み。
エンジェル部へ入ってから、初めて経験することばかりだった。
地域清掃。
保育園ボランティア。
老人ホーム慰問。
炊き出し。
病院慰問。
プール。
そして今日の夏祭り。
最初は面倒だと思っていた。
人と関わることなんて、できれば避けていたかった。
友達なんていらない。
ずっと、そう思っていた。
それなのに。
気付けば、隣には二人がいる。
一緒に笑って。
一緒に困って。
一緒に思い出を作って。
(信頼できる仲間……。)
(友達……。)
(こんなふうに思えたのは、初めてかもしれない。)
自然と笑みがこぼれる。
「はい」
「また来年も来ましょう」
その言葉を聞いた凪は、ぱっと笑顔になった。
「約束や!」
勢いよく右手を差し出す。
栞も優しく微笑み、その手へ自分の手を重ねた。
「約束です」
二人は正義を見る。
正義は少し照れくさそうに笑いながら、その手へ自分の手を重ねた。
「約束です」
三人の手が重なる。
誰かに言われた約束ではない。
三人が、自分たちの意思で交わした約束だった。
夜風が三人の間を優しく吹き抜ける。
来年も。
再来年も。
その先も。
またこうして笑い合えたらいい。
正義は二人の笑顔を見つめながら、静かにそう願った。
この夏に出会えたこと。
この夏に笑い合えたこと。
この夏に、大切な仲間と友達ができたこと。
それはきっと、夜空に咲いたどんな花火よりも、正義の心に深く刻まれる思い出になる。
そして三人は、来年の夏を楽しみにしながら、それぞれの家路へと歩き出した。




