表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
92/143

第90話 来年も

 花火大会が終わり、帰路につく人々で駅前は賑わっていた。


 三人も人の流れに合わせながら、ゆっくりと歩いていく。


 夜風が心地よく、火照った身体を優しく冷ましてくれた。


「楽しかったなぁ」


 凪が満足そうに大きく伸びをする。


「今日は食べ過ぎましたね」


 正義が苦笑すると、


「祭りやからええねん!」


 凪は胸を張って答えた。


 栞も思わず笑う。


「ふふっ」


「凪ちゃんらしいですね」


 三人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。


 しばらく歩いたところで、凪がふと立ち止まる。


「なあ」


「また来年来ようや」


 その一言に、栞は優しく頷いた。


「はい」


「来年も、三人で来たいですね」


 二人の視線が正義へ向く。


「桜木君は?」


 正義は少しだけ立ち止まり、夜空を見上げた。


 さっきまで夜空を彩っていた花火はもう消え、そこには静かな星空だけが広がっている。


 今年の夏休み。


 エンジェル部へ入ってから、初めて経験することばかりだった。


 地域清掃。


 保育園ボランティア。


 老人ホーム慰問。


 炊き出し。


 病院慰問。


 プール。


 そして今日の夏祭り。


 最初は面倒だと思っていた。


 人と関わることなんて、できれば避けていたかった。


 友達なんていらない。


 ずっと、そう思っていた。


 それなのに。


 気付けば、隣には二人がいる。


 一緒に笑って。


 一緒に困って。


 一緒に思い出を作って。


(信頼できる仲間……。)


(友達……。)


(こんなふうに思えたのは、初めてかもしれない。)


 自然と笑みがこぼれる。


「はい」


「また来年も来ましょう」


 その言葉を聞いた凪は、ぱっと笑顔になった。


「約束や!」


 勢いよく右手を差し出す。


 栞も優しく微笑み、その手へ自分の手を重ねた。


「約束です」


 二人は正義を見る。


 正義は少し照れくさそうに笑いながら、その手へ自分の手を重ねた。


「約束です」


 三人の手が重なる。


 誰かに言われた約束ではない。


 三人が、自分たちの意思で交わした約束だった。


 夜風が三人の間を優しく吹き抜ける。


 来年も。


 再来年も。


 その先も。


 またこうして笑い合えたらいい。


 正義は二人の笑顔を見つめながら、静かにそう願った。


 この夏に出会えたこと。


 この夏に笑い合えたこと。


 この夏に、大切な仲間と友達ができたこと。


 それはきっと、夜空に咲いたどんな花火よりも、正義の心に深く刻まれる思い出になる。


 そして三人は、来年の夏を楽しみにしながら、それぞれの家路へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ