第86話 アイス
市民プールを思い切り満喫した三人は、更衣室で着替えを済ませ、帰り道を歩いていた。
夕暮れが近付き、昼間の強い日差しも少しずつ和らいでいる。
「遊んだなぁ!」
凪は大きく背伸びをする。
「めっちゃ楽しかった!」
正義も苦笑しながら頷いた。
「さすがに疲れました」
「久しぶりにこんなに身体を動かしましたよ」
栞も穏やかに微笑む。
「でも、とても充実した一日でしたね」
その時だった。
「あっ!」
凪が急に立ち止まる。
「アイス食べたい!」
指差した先には、小さな売店があった。
栞も嬉しそうに頷く。
「いいですね」
「今日は暑かったですし」
二人は同時に正義を見る。
「桜木君も食べますよね?」
正義は少し困ったように笑った。
「……拒否権はありますか?」
「ありません!」
二人の返事がぴったり重なる。
「ですよね」
正義は諦めたように肩を落とした。
三人は売店でアイスを買う。
凪はソーダ味。
栞はバニラ。
正義はチョコレート。
「いただきます!」
三人は同時に一口頬張る。
「冷たーい!」
凪が嬉しそうに笑う。
「生き返るわ!」
栞も幸せそうに微笑んだ。
「甘くて美味しいですね」
正義も思わず笑みを浮かべる。
「運動した後だからでしょうか」
「いつもより美味しく感じます」
三人はアイスを食べながら、ゆっくりと夕暮れの街を歩く。
他愛もない話をしながら笑い合う。
今日プールであった出来事。
夏休みの予定。
学校が始まったらやりたいこと。
そんな何気ない会話が心地良かった。
ふと凪が思い出したように笑う。
「そういや正義」
「今日は災難やったな」
「買い物でも振り回されて、水着でも困らされて」
正義は苦笑する。
「本当に疲れました」
「でも……」
二人を見る。
「楽しかったですよ」
その一言に、栞は優しく微笑んだ。
「私もです」
凪も嬉しそうに笑う。
「ほな大成功やな!」
三人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。
夕焼けに染まる空。
どこからか聞こえる蝉の声。
アイスを片手に歩く帰り道。
正義は空を見上げ、小さく呟く。
「こういう夏も……いいものですね」
栞は静かに頷いた。
「はい」
「きっと忘れられない夏になります」
凪は元気よくアイスを掲げる。
「まだまだ夏休みは終わらへんで!」
三人の笑い声が、夕暮れの街へ優しく溶けていく。
何気ない一日。
それは、何年経ってもきっと思い出す。
アイスの甘さと、友達と笑い合った夏の日を。




