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第84話 市民プール

 数日後。


 待ちに待ったプールの日がやって来た。


 夏空には大きな入道雲が浮かび、照り付ける太陽が容赦なく地面を熱している。


 三人は市民プールの入口で待ち合わせをしていた。


「暑い……」


 正義は額の汗を拭きながら呟く。


 そこへ元気いっぱいの声が響いた。


「正義ー!」


 振り返ると、凪が大きく手を振りながら駆け寄ってくる。


「待った?」


「いえ、今来たところです」


「栞は?」


「お待たせしました」


 少し遅れて栞も姿を現した。


「それでは入りましょうか」


 三人は受付を済ませ、更衣室へ向かった。


 しばらくして。


「お待たせ!」


 凪が元気よく姿を見せる。


「どう?」


 反対側からは、少し照れた様子の栞が歩いてくる。


「こちらは……どうでしょうか?」


 突然の問いに、正義は思わず固まった。


「えっと……」


 一瞬だけ考え込み、真面目な顔で答える。


「二人とも、とてもよく似合っています」


 凪は腕を組み、じーっと正義を見つめた。


「……適当に言っとるやろ?」


「そんなことありません」


 即答だった。


 栞もくすっと笑う。


「水着選びの時と同じ答えですね」


「成長してませんね、桜木君」


「最適解を選んだつもりなんですが……」


 正義が小さくため息をつく。


 凪は吹き出した。


「あはは!」


「もうええわ!」


「合格にしといたる!」


「ありがとうございます……」


 三人は笑いながら流れるプールへ向かった。


「気持ちいいー!」


 凪は勢いよく飛び込む。


 バシャッ!


 大きな水しぶきが正義へ降り掛かった。


「凪さん!」


「わざとでしょう!」


「ばれた?」


 悪戯っぽく笑う凪。


「この!」


 正義も水をすくい、凪へ掛け返す。


「きゃっ!」


「正義!」


「やったな!」


 バシャッ!


 バシャッ!


 二人は子どものように水を掛け合い始めた。


 少し離れた場所で見ていた栞は、小さく笑う。


「もう、お二人とも」


 そう言いながら近付いた、その瞬間。


 バシャッ!


「あっ……」


 二人の水しぶきが、栞にも掛かってしまった。


 正義と凪は同時に固まる。


「ご、ごめんなさい!」


「栞!」


 栞は一瞬驚いた表情を見せたが、やがて優しく微笑んだ。


「仕返ししても……いいですよね?」


「えっ?」


 次の瞬間。


 バシャッ!


「うわっ!」


「きゃー!」


 今度は栞が思い切り水を掛け返した。


 凪はお腹を抱えて笑う。


「あははは!」


「栞、やるやん!」


 正義も思わず笑ってしまう。


「完全に油断しました」


 その後も三人は流れるプールを回り、波のプールではしゃぎ、水を掛け合いながら夏の一日を思い切り楽しんだ。


 誰かのために汗を流した夏も、大切な思い出。


 そして、何も考えずに笑い合える今日という一日もまた、三人にとってかけがえのない青春の一ページとなるのだった。

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