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第82話 ありがとう

 楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。


 プレイルームの時計が、交流会の終わりを告げる。


 担当の看護師が優しく声を掛けた。


「皆さん、今日はこれでおしまいですよ」


 その言葉に、子どもたちから一斉に声が上がる。


「えー!」


「もう帰っちゃうの?」


「もっと遊びたかった!」


 名残惜しそうな表情が広がる。


 栞は子どもたちの前へしゃがみ込み、優しく微笑んだ。


「今日は一緒に遊んでくれて、ありがとうございました」


「私たちも、とても楽しかったです」


 凪も笑顔で手を振る。


「また遊びに来るからな!」


「約束やで!」


 その時だった。


 明日、手術を控えている男の子が凪の前へ歩いてきた。


「お姉ちゃん」


「明日……頑張るね」


 凪は少し目を潤ませながら、笑顔で頷く。


「うん」


「応援しとるからな」


「絶対、大丈夫や」


 男の子も力強く頷いた。


「ありがとう」


 その一言をきっかけに、子どもたちが次々と三人の周りへ集まってくる。


「折り紙、大切にするね!」


「絵本、また読んでね!」


「また遊びに来てね!」


「ありがとう!」


 小さな「ありがとう」が、何度も何度も響いた。


 正義は少し照れながら微笑む。


「こちらこそ、ありがとうございました」


「また皆さんに会いに来ます」


 その言葉に、子どもたちは嬉しそうに笑った。


 プレイルームを出ると、担当の看護師や保育士たちが見送りに来てくれていた。


「本日は、本当にありがとうございました」


「子どもたちが、あんなに笑っている姿を久しぶりに見ることができました」


 看護師は嬉しそうに微笑む。


 栞は丁寧に頭を下げた。


「私たちの方こそ、大切な時間をありがとうございました」


 シスター小林も穏やかに微笑む。


「また伺わせていただきます」


 病院の玄関を出ようとした、その時だった。


「おーい!」


 三人が振り返る。


 プレイルームの窓から、子どもたちが一生懸命手を振っていた。


「ありがとう!」


「また来てね!」


「待ってるよ!」


 三人も思わず立ち止まり、大きく手を振り返す。


「また来るでー!」


 凪が元気いっぱいに応える。


 栞も優しく微笑みながら手を振った。


「皆さんも元気でいてくださいね」


 正義も少し照れながら笑う。


「また会いましょう」


 病院を後にする三人の背中を、子どもたちの笑顔と「ありがとう」という元気な声が、いつまでも見送っていた。


 その一言は、どんな贈り物よりも温かかった。


 誰かを笑顔にしたい。


 その想いはまた一つ、「ありがとう」という言葉に支えられながら、三人の心の中で静かに育っていくのだった。

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