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第79話 同じ痛み

 小児病棟での交流が始まってしばらく。


 プレイルームには、子どもたちの笑い声が少しずつ増えてきていた。


 栞は折り紙を教え、正義はカードゲームの相手をしている。


 一方、凪は窓際で一人静かに外を眺めている女の子の姿に気付いた。


「どうしたん?」


 優しく声を掛ける。


 女の子は小さく首を横に振った。


「……今日は、あまり遊ぶ気分じゃないの」


 凪は無理に誘わず、その隣へ腰を下ろした。


「そういう日もあるよな」


 二人はしばらく黙って窓の外を眺める。


 やがて女の子が、小さな声で尋ねた。


「お姉ちゃんも……病気だったの?」


 凪は少しだけ驚いた。


 そして、ゆっくりと頷く。


「うん」


「うちは、生まれつき心臓が悪かったんよ」


 女の子が顔を上げる。


「何回も入院したし、手術もした」


「学校へ行けへん時もあったし、友達と遊ばれへん日もいっぱいあった」


 凪は静かに笑った。


「なんで自分だけなんやろって、何回も思ったわ」


 女の子は何も言わず、その言葉を聞いていた。


「でもな」


 凪は優しく続ける。


「その時、いっぱい支えてくれる人がおった」


「お医者さんも、看護師さんも、家族も、友達も」


「せやから、今こうして元気に笑っとれる」


 女の子は不安そうな表情で尋ねる。


「……私も元気になれるかな」


 凪は迷うことなく頷いた。


「なれる」


「時間はかかるかもしれへん」


「しんどい日もある」


「でも、大丈夫や」


 そう言って、自分の胸へそっと手を当てる。


「うちが証拠や」


 その笑顔には、病気を乗り越えてきた人だけが持つ温かさがあった。


 女の子も少しだけ笑顔を見せる。


「……ありがとう」


 その様子を見ていた近くの男の子が、おずおずと話しかけた。


「お姉ちゃん」


「注射、怖くなかった?」


 凪は思わず吹き出した。


「めっちゃ怖かった!」


「毎回泣いとったで!」


 その答えに、子どもたちから笑い声がこぼれる。


「僕も泣いちゃうよ」


「私も!」


「痛いもんね」


「せやろ?」


「でも、頑張ったらちゃんと終わるからな」


 少しずつ、子どもたちが凪の周りへ集まってきた。


 病気のこと。


 学校のこと。


 退院したらやりたいこと。


 子どもたちは少しずつ、自分の気持ちを話し始める。


 離れた場所から見守っていた栞が、小さく微笑んだ。


「凪ちゃんだからこそ、伝えられる言葉がありますね」


 正義も静かに頷く。


「励ましているんじゃない」


「自分が歩いてきた道を話しているだけなんですね」


 だからこそ、その言葉は子どもたちの心へまっすぐ届く。


 同じ痛みを知る人だからこそ、寄り添える想いがある。


 プレイルームには、少し前までの静けさが嘘のように、子どもたちの笑顔と笑い声が広がっていた。

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