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第77話 一杯の温もり

 炊き出しは無事に終わりを迎えた。


 会場では、教会関係者や社会福祉協議会の職員、地域ボランティアたちが協力しながら後片付けを進めている。


 エンジェル部の三人も、食器を洗い、机を拭き、最後まで黙々と作業を続けていた。


 その時だった。


「お兄さん、お姉さん」


 一人のおばあさんが、ゆっくりと三人のもとへ歩いてくる。


 栞が優しく微笑んだ。


「どうされましたか?」


 おばあさんは三人の顔を見渡し、深々と頭を下げた。


「今日は、本当にありがとう」


「冷たいうどん、とても美味しかったよ」


「お腹だけやなくて、心まで温こうなった」


 その言葉に、三人は思わず顔を見合わせる。


「こちらこそ、ありがとうございました」


 栞も丁寧に頭を下げた。


 すると、その様子を見ていた利用者たちが次々と集まってくる。


「ごちそうさまでした」


「美味しかったよ」


「また来年も来るからな」


「今日はありがとう」


 次々と掛けられる感謝の言葉。


 凪は照れくさそうに笑う。


「そんな何回も『ありがとう』言われたら、照れるやん」


 利用者たちも笑った。


「感謝しとるんやから」


「何回でも言わせて」


 正義はその光景を静かに見つめていた。


 最初は、誰かのために働く活動だと思っていた。


 でも今は違う。


 目の前の笑顔。


 そして、「ありがとう」というたった一言。


 それだけで、疲れなんて吹き飛んでしまう。


 それほど温かな言葉だった。


 帰る準備を終えた三人へ、シスター小林が優しく声を掛ける。


「皆さん、本当にお疲れさまでした」


「今日も素敵な活動でしたね」


 正義は少し照れながら笑う。


「僕たちの方が、たくさん元気をもらった気がします」


 栞は嬉しそうに頷いた。


「それが奉仕の不思議なところなんです」


「誰かを笑顔にすると、自分も笑顔になれるんですよ」


 凪も元気よく笑った。


「『ありがとう』って、こんなに嬉しい言葉やったんやな」


 三人は教会を後にする。


 夏の青空は、どこまでも澄み渡っていた。


 今日届けたのは、一杯の冷やしうどん。


 けれど、本当に届けたかったものは、その一杯に込めた思いやりだった。


 そして三人もまた、利用者たちからたくさんの優しさを受け取っていた。


 この日、楠市長は最後まで三人の活動を静かに見守っていた。


 誰かのために汗を流し、見返りを求めることなく笑顔で働く高校生たちの姿は、市長の心に深く刻まれる。


 それが、やがて市民功労賞という形で実を結ぶことになる。


 しかし、その時の三人はまだ知らない。


 自分たちにとって、本当のご褒美は賞状ではなかった。


「ありがとう」


 利用者たちが笑顔で伝えてくれた、その一言。


 三人にとって、一杯の冷やしうどん以上に温かな贈り物だった。

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