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第72話 また来ます

 老人ホームでのボランティアも、終わりの時間を迎えていた。


 職員が優しく声を掛ける。


「皆さん、今日はこれでおしまいですよ」


 その言葉に、談話室からは名残惜しそうな声が上がる。


「もう帰るんか」


「早いなぁ」


 栞は利用者たちの前へ進み、丁寧に頭を下げた。


「本日はありがとうございました」


「皆さんとたくさんお話ができて、本当に楽しかったです」


 凪も笑顔で頭を下げる。


「うちもめっちゃ楽しかったわ!」


「また将棋の勝負してくださいね!」


「今度こそ勝つで!」


 その言葉に、おじいさんたちが声を上げて笑った。


「まだまだ負けへんぞ!」


「毎日練習しとくわ!」


 談話室が笑いに包まれる。


 正義も静かに一礼した。


「今日はありがとうございました」


「皆さんのお話を聞けて、とても勉強になりました」


 一人のおばあさんが優しく微笑む。


「こちらこそありがとう」


「若い人が来てくれるだけで元気が出るんよ」


 昔話を聞かせてくれたおじいさんも頷いた。


「また昔話でも聞いてくれ」


「次はもっと面白い話、用意しとくわ」


 正義も自然と笑みを浮かべた。


「楽しみにしています」


 帰る準備を終えた三人は、玄関へ向かう。


 すると利用者たちも職員に付き添われながら見送りに来てくれた。


「気ぃ付けて帰るんやで」


「暑いから身体には気を付けな」


「勉強も頑張るんやで」


 まるで本当の孫を見送るような温かい言葉だった。


 栞は嬉しそうに微笑む。


「はい」


「また皆さんに会いに来ます」


 凪も大きく手を振る。


「またいっぱいおしゃべりしましょうね!」


「次も元気に来るで!」


 そして正義も少し照れくさそうに頭を下げた。


「……また来ます」


 その一言に、利用者たちは皆、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「待っとるよ」


「また来てくださいね」


「元気な顔、見せてな」


 三人は何度も手を振り返しながら老人ホームを後にする。


 門を出てもなお、利用者たちは建物の前で手を振り続けていた。


 その姿が見えなくなるまで、三人も振り返り続ける。


 帰り道。


 正義がぽつりと呟いた。


「最初は緊張していました」


「でも……」


 少し照れくさそうに笑う。


「また会いたいと思える場所が、一つ増えました」


 栞は嬉しそうに微笑む。


「きっと皆さんも同じ気持ちですよ」


 凪も大きく頷いた。


「せやな」


「『また来てくださいね』って言葉、めっちゃ嬉しかったわ」


 三人は夕暮れの道を並んで歩いていく。


 今日交わした約束は、ただの別れの挨拶ではない。


 また笑顔で会える日を願う、温かな約束だった。


 その想いを胸に、三人はゆっくりと教会への帰り道を歩いていった。

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