第71話 受け継がれる想い
老人ホームでのボランティアを終えた帰り道。
三人は教会へ向かって、ゆっくりと歩いていた。
夏の夕暮れが街を優しく照らしている。
しばらく誰も口を開かなかった。
今日一日を、それぞれが静かに振り返っていたからだ。
やがて正義がぽつりと呟く。
「皆さん、本当に喜んでくれましたね」
栞は穏やかに頷いた。
「はい」
「だから私は、この活動が大好きなんです」
凪も笑顔を浮かべる。
「うちもや」
「元気届けに行ったはずやのに、逆に元気もろてもうた」
「そうですね」
正義も小さく笑った。
その様子を見た栞は、どこか懐かしそうに空を見上げる。
「実は……」
「私がエンジェル部へ入ったきっかけも、この老人ホームだったんです」
二人は栞へ視線を向けた。
「一年生の頃、当時の部長だった先輩に声を掛けてもらったんです」
『一度だけでいいから、見学に来てみない?』
「最初は、お断りするつもりでした」
「私なんかに務まるのかなって、不安でしたから」
栞は少し照れくさそうに笑う。
「でも、一度だけ見学へ来たのが、この老人ホームでのボランティアだったんです」
その日のことを思い出すように、ゆっくりと話し始める。
「先輩方は、利用者の皆さん一人ひとりと笑顔でお話をして、一緒に歌って、一緒に笑っていました」
「帰る時、一人のおばあさんが先輩へ手を振って言ったんです」
『今日はありがとう』
『また来てね』
「その時の先輩の笑顔が、本当に素敵で……」
栞は優しく微笑んだ。
「その瞬間に思ったんです」
「私も、あんなエンジェル部員になりたいって」
正義は静かに頷いた。
「だから、あれほどエンジェル部を大切にしていたんですね」
「はい」
栞は迷いなく答えた。
「先輩が私へ繋いでくださったものだからです」
「だから今度は、私が次の誰かへ繋いでいきたいんです」
凪は嬉しそうに笑った。
「そういうことやったんやな」
「めっちゃ栞らしいわ」
正義は少し考え込むように歩きながら呟く。
「奉仕って……」
「誰かのために何かをしてあげることだと思っていました」
二人が足を止める。
「でも違うんですね」
「誰かが笑顔になると、自分も笑顔になる」
「その笑顔が、また次の人へ繋がっていく」
栞は嬉しそうに微笑んだ。
「はい」
「それが、エンジェル部がずっと大切にしてきた想いなんです」
夏の風が三人の間を優しく吹き抜ける。
先輩から栞へ。
栞から正義と凪へ。
受け取った優しさは、誰かへ渡すことで、また次の世代へ受け継がれていく。
三人はその温かな想いを胸に、夕暮れの道をゆっくりと歩き続けた。




