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第70話 レクリエーション

 老人ホームでの交流もすっかり打ち解けた頃。


 職員が利用者たちへ明るく声を掛けた。


「それでは、お待ちかねのレクリエーションを始めます!」


 談話室に拍手が響く。


 利用者たちは皆、待っていましたと言わんばかりの笑顔だった。


 栞が職員へ尋ねる。


「私たちもお手伝いしますか?」


「ぜひお願いします」


「皆さんも一緒に楽しんでください」


「はい!」


 三人は笑顔で頷いた。


 最初は歌の時間だった。


 伴奏が流れ始めると、利用者たちは自然と歌い始める。


「……あれ?」


 正義は歌詞カードを見ながら小さく首を傾げた。


「知ってる曲ありますか?」


 栞も苦笑する。


「私はほとんど分かりません」


 凪も笑いながら肩をすくめた。


「演歌ばっかりやなぁ」


「うちも全然知らへんわ」


 すると、一人のおばあさんが笑顔で手を振る。


「若い子も一緒に歌い!」


「歌詞見たら大丈夫や!」


 気が付けば三人も歌詞カードを手にし、一緒に歌っていた。


 慣れない演歌に戸惑いながらも歌う三人を見て、利用者たちは大喜びする。


「ええ声や!」


「もっと元気に!」


 談話室は笑顔と拍手に包まれた。


 歌が終わると、今度は軽快な音楽が流れ始める。


「あっ、この曲!」


 一人のおばあさんが立ち上がった。


 続いて、また一人。


 また一人。


 気が付けば、おばあさんたちが楽しそうに踊り始めていた。


「ほら、お兄ちゃんも!」


「えっ?」


 正義は思わず自分を指差す。


「わしですか?」


「そうそう!」


「若いんやから一緒に踊り!」


 凪は大笑いする。


「あはは!」


「正義、呼ばれとるで!」


「助けてください」


「無理や」


 栞まで笑いを堪えていた。


「頑張ってください、正義君」


「栞さんまで……」


 結局、正義もおばあさんたちの輪の中へ引っ張り込まれてしまった。


「右足!」


「次は左!」


「手をこうして!」


 初めて見る踊りに、正義は完全に翻弄される。


「こ、こうですか?」


「違う違う!」


「もっと笑顔!」


 あちこちから次々と指示が飛ぶ。


 談話室は大爆笑だった。


 最初は恥ずかしそうにしていた正義も、利用者たちの楽しそうな笑顔を見ているうちに、自然と笑っていた。


「これで合ってます?」


「そうそう!」


「上手になった!」


 そのやり取りに、また笑い声が広がる。


 凪も我慢できずに輪へ飛び込んだ。


「うちも踊る!」


 栞も少し照れながら加わる。


「失礼します」


 三人と利用者たちは、歌い、踊り、笑い合う。


 年齢も立場も関係ない。


 そこにあったのは、ただ一緒に楽しい時間を過ごすという、それだけだった。


 レクリエーションが終わると、談話室には大きな拍手が響き渡る。


「今日はほんまに楽しかった!」


「久しぶりにいっぱい笑ったわ」


「また来てな」


 利用者たちは皆、満面の笑みを浮かべていた。


 正義も少し照れくさそうに笑う。


「初めて踊りましたけど……」


「楽しかったです」


 その素直な一言に、栞は優しく微笑む。


「正義君、とても楽しそうでしたよ」


 凪もにやりと笑った。


「最初は嫌そうやったのに、最後はノリノリやったやん」


「……否定はしません」


 三人は顔を見合わせ、思わず笑い合う。


 その笑顔は利用者たちにも伝わり、談話室には再び温かな笑い声が響いた。


 老人ホーム全体が、笑顔に包まれた午後だった。

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