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同じクラスのお嬢様が、冴えない僕に構ってくるんだけどどうしたらいい?  作者: Atelier Lotus


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第69話 昔話

 老人ホームでの交流が始まってしばらく。


 談話室には、あちこちで楽しそうな笑い声が響いていた。


 栞は編み物をしている女性たちと穏やかに話をしている。


 凪は将棋を囲む男性たちと笑いながら勝負を楽しんでいた。


「また負けたわ!」


「まだまだ修行が足りへんなぁ」


「次こそ勝つで!」


 周囲から笑い声が上がる。


 一方、正義は窓際に座る一人の男性利用者の隣へ腰を下ろした。


「高校一年生か」


「若いってええなぁ」


 男性は優しく目を細める。


「今は食べるもんにも困らん時代やろ?」


「はい」


 正義は静かに頷いた。


 男性は少し遠くを見るような表情になり、ゆっくりと話し始める。


「わしらが子どもの頃はな」


「戦争が終わったばかりで、本当に食べるもんがなかった」


 その言葉に、栞と凪も自然と耳を傾ける。


「白いご飯なんて、ほとんど口にできん」


「サツマイモの葉っぱを茹でて食べたりして、何とか腹を満たしとった」


 談話室が静まり返る。


 誰も言葉を挟まない。


 男性は懐かしそうに笑いながら続けた。


「父ちゃんは戦争へ行ったまま帰ってこんかった」


「母ちゃんが女手一つで育ててくれたんや」


「朝から晩まで働いて、自分はろくに食べんでも、わしには食べさせてくれてな」


 少し照れくさそうに頭を掻く。


「だから今でも、母ちゃんが大好きなんや」


「わし、マザコンなんや」


 そう言って豪快に笑った。


 その笑顔につられ、談話室にも優しい笑いが広がる。


 しかし、その笑いの奥には、決して忘れることのできない人生があった。


 正義は静かに口を開く。


「……大変だったんですね」


 男性は首を横に振った。


「大変やったけどな」


「みんな必死やった」


「生きることが、一番大事やった時代や」


 その一言には、何十年もの歳月が込められていた。


 栞は深く頭を下げる。


「貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました」


 凪も真剣な表情で頷く。


「教科書では勉強したけど……」


「実際に経験した人の話は、全然違います」


 男性は優しく笑った。


「こうして聞いてくれるだけで十分や」


「昔話も、誰かに話さんとな」


 交流を終え、三人は老人ホームを後にする。


 帰り道。


 しばらく誰も口を開かなかった。


 やがて正義が静かに呟く。


「歴史の授業だと思っていたことが……」


「一人ひとりの人生だったんですね」


 栞は穏やかに頷く。


「だからこそ、お話には重みがあるんです」


 凪も空を見上げながら、小さく息を吐いた。


「うちらが当たり前やと思っとる毎日も、誰かが必死に生きてきた先にあるんやな」


 三人はゆっくりと歩き続ける。


 今日聞いた昔話は、単なる思い出話ではなかった。


 それは、一つの時代を懸命に生き抜いた人の人生そのものだった。


 その重みは、夏の青空の下で、三人の心に静かに刻まれていくのだった。

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