第66話 笑顔
保育園でのボランティアも終わりの時間が近付いていた。
園庭では子どもたちの元気な笑い声が絶えず響いている。
午前中こそ緊張していた三人だったが、今ではすっかり園児たちの輪の中へ溶け込んでいた。
「栞お姉ちゃん!」
「絵本読んで!」
「はい」
栞は子どもたちに囲まれながら絵本を開く。
優しく穏やかな声で読み聞かせを始めると、元気いっぱいだった子どもたちも自然と耳を傾け始めた。
物語が進むたびに目を輝かせたり、笑ったり、驚いたり。
栞も子どもたちの反応を見ながら、楽しそうにページをめくっていく。
一方、園庭では――。
「凪お姉ちゃん!」
「もう一回鬼や!」
「よっしゃ!」
「今度は絶対捕まえるでー!」
凪は子どもたちと全力で園庭を駆け回っていた。
汗びっしょりになりながらも、その笑顔は誰よりも楽しそうだ。
そして正義は。
「お兄ちゃん」
「ブロックの電車つなげて!」
「ここが駅!」
「じゃあ、この橋を渡れば線路が繋がりますね」
子どもたちの話を一つひとつ聞きながら、一緒に大きな街を作っていた。
「できた!」
「すごーい!」
完成した街を見て、子どもたちは大喜びする。
正義も自然と笑みを浮かべていた。
その笑顔を見付けた凪が、思わず栞へ耳打ちする。
「見てみ」
「正義、めっちゃ笑っとる」
栞も思わず微笑んだ。
「本当ですね」
「楽しそうです」
その頃には、正義の周りへまた子どもたちが集まっていた。
「お兄ちゃん!」
「次は何して遊ぶ?」
「かくれんぼ!」
「お絵描き!」
口々に話し掛けてくる。
正義は困ったように笑いながら答えた。
「順番ですよ」
「みんなと遊びますから」
「はーい!」
子どもたちは元気よく返事をする。
その素直な様子を見ていた保育士が感心したように呟いた。
「桜木君、本当に人気ですね」
「子どもたちが安心して甘えています」
「そうなんですか?」
正義は不思議そうに首を傾げる。
「はい」
「きっと、一人ひとりとちゃんと向き合ってくれるからでしょうね」
正義は少し照れくさそうに笑った。
「そんな大したことはしていません」
「ただ、一緒に遊んでいるだけです」
その言葉に、保育士は優しく首を横に振る。
「その『一緒に』が、一番嬉しいんですよ」
正義は少しだけ照れながら視線を逸らした。
その時だった。
「みんなー!」
保育士が声を掛ける。
「そろそろお片付けの時間ですよー!」
「はーい!」
子どもたちは元気よく返事をすると、おもちゃを元の場所へ運び始めた。
三人も一緒に片付けを手伝う。
最後のおもちゃを棚へ戻し終えた時、保育室には自然と拍手が起こった。
「ありがとうございました!」
園児たちが元気よく頭を下げる。
三人も笑顔で頭を下げ返した。
「こちらこそ、ありがとう」
子どもたちの笑顔。
栞の優しい笑顔。
凪の屈託のない笑顔。
そして、正義の照れくさそうな笑顔。
保育室は、その日一番の笑顔で満ちあふれていた。




