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第64話 お兄ちゃん

 保育園でのボランティアが始まってしばらく。


 園庭には、子どもたちの元気な笑い声が響いていた。


 凪は鬼ごっこで全力疾走。


「待て待てー!」


「きゃー!」


 子どもたちと一緒になって園庭を駆け回っている。


 栞は教室で折り紙やお絵描きを教えていた。


「できた!」


「上手ですね」


 優しい笑顔に、女の子たちも嬉しそうに笑っている。


 そして。


「お兄ちゃん!」


「こっち来て!」


 今日も正義は、園児たちに囲まれていた。


「今度は何ですか?」


「積み木!」


「ブロック!」


「絵本!」


「かくれんぼ!」


 あちこちから誘われ、正義は苦笑する。


「一人ずつお願いします」


「順番ですよ」


「はーい!」


 園児たちは素直に返事をすると、本当に順番を守り始めた。


 その様子を見ていた保育士が驚いたように呟く。


「すごい……」


「ちゃんと並んでる」


 もう一人の保育士も微笑んだ。


「桜木君、不思議ですね」


「子どもたちが自然とお話を聞いています」


 正義本人は気付いていない。


 ただ一人ひとりと目線を合わせ、落ち着いた口調で話しているだけだった。


 その時。


 一人の男の子が積み木を崩してしまった。


「うわぁ……」


 今にも泣きそうになる。


 正義は何も言わず、その場へしゃがみ込んだ。


「もう一回、一緒に作ろうか」


 男の子は小さく頷く。


「……うん」


 二人でゆっくり積み木を積み始める。


 一段。


 二段。


 三段。


 やがて立派なお城が完成した。


「できた!」


 男の子は満面の笑みを浮かべる。


「すごい!」


「お兄ちゃんすごい!」


 その声を聞き付けた子どもたちが次々と集まってきた。


「ぼくも!」


「私も作る!」


 気が付けば、正義の周りにはまた大きな輪ができていた。


 その様子を見た凪が笑う。


「正義、完全に人気者やな」


「理由が分かりません」


「本人だけ分かってへんだけや」


 凪は肩をすくめる。


 栞もその光景を見つめながら優しく微笑んだ。


「正義君は、一人ひとりとちゃんと向き合っていますから」


「子どもたちも安心できるんでしょうね」


 その時、小さな女の子が正義の服をちょんちょんと引っ張った。


「お兄ちゃん」


「なに?」


「明日も来る?」


 正義は少し困ったように笑う。


「明日は来られません」


「でも、また来る機会があれば遊びますよ」


「ほんと?」


「約束です」


 正義が小指を差し出すと、女の子も嬉しそうに小指を絡めた。


「ゆびきりげんまん!」


 その様子を見ていた子どもたちも、


「ぼくも!」


「わたしも!」


 と次々に小指を差し出してくる。


 正義は思わず苦笑した。


「約束が増えましたね……」


 栞と凪はその姿を見て、思わず笑い合う。


 無愛想で人付き合いが苦手なはずの正義。


 それでも子どもたちは、本能のようにその優しさを感じ取っていた。


 園庭には今日も、


「お兄ちゃん!」


という元気な声が、いつまでも響き続けるのだった。

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