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第63話 元気いっぱい

 夏休みに入って最初の保育園ボランティアの日。


 朝九時。


 エンジェル部の三人は教会へ集まっていた。


 礼拝堂では、シスター小林が今日の予定を説明している。


「今日は地域の『ひまわり保育園』へ伺います」


「子どもたちは、皆さんが来るのをとても楽しみにしていますよ」


 栞は嬉しそうに微笑んだ。


「私も楽しみです」


 凪も大きく頷く。


「子ども好きやし、いっぱい遊んでくる!」


 一方。


 正義だけは少し不安そうな表情を浮かべていた。


「僕、小さい子と接したことがあまりないんですが……」


 シスター小林は優しく微笑む。


「大丈夫ですよ」


「子どもたちは、皆さんの笑顔を待っています」


「難しく考えず、一緒に楽しんできてください」


「……頑張ります」


 三人は教会を後にし、歩いて保育園へ向かった。


 到着すると、園長先生と保育士たちが笑顔で迎えてくれる。


「お待ちしていました」


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 三人は揃って頭を下げた。


 簡単な説明を受けた後、保育士が保育室の扉を開く。


 その瞬間だった。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん来たー!」


 元気いっぱいの声が保育室いっぱいに響き渡る。


 次の瞬間、小さな足音が一斉に駆け出した。


「うわっ!」


 正義が思わず声を上げる。


 十数人の園児たちが勢いよく三人へ飛び付いてきた。


「遊ぼー!」


「鬼ごっこしよ!」


「ブロック!」


「お絵描き!」


「お外行こ!」


 次々と飛び交う声。


 三人は一瞬で子どもたちに囲まれてしまった。


「す、すごい……」


 正義は完全に圧倒され、立ち尽くす。


 一方の凪は嬉しそうに笑った。


「元気やなぁ!」


「よーし! 鬼ごっこする人!」


「はーい!」


 男の子たちが一斉に手を挙げ、凪を引っ張って園庭へ走っていく。


 栞も女の子たちに囲まれていた。


「栞お姉ちゃん!」


「折り紙教えて!」


「おままごともしよ!」


「はい」


「みんなで遊びましょう」


 優しく微笑む栞の周りにも、小さな笑顔が集まっていく。


 そして。


 正義の前にも、一人の男の子がやって来た。


「お兄ちゃん」


「……はい?」


「遊ぼ!」


 その一言を合図にしたように、


「ぼくも!」


「わたしも!」


「お兄ちゃん!」


 園児たちが一斉に正義へ集まってくる。


「えっ、ちょっと!」


「待ってください!」


 右の手を引かれ、左の袖を引っ張られ、背中まで押される。


 まるで小さな台風だった。


「助けてください……!」


 思わず栞へ助けを求める。


 しかし栞は笑いを堪えながら首を横に振った。


「今日は諦めてください」


「気に入った人は、なかなか離してもらえませんから」


「そんなぁ……」


 凪はその様子を見て大笑いする。


「あははは!」


「正義、大人気やん!」


「笑い事じゃありません!」


 そのやり取りを見ていた保育士も優しく笑った。


「子どもって不思議なんです」


「優しい人は、ちゃんと分かるんですよ」


 正義はきょとんと目を瞬かせる。


「僕が……ですか?」


「はい」


「安心できる人なんでしょうね」


 照れくさそうに頭を掻く正義。


 その瞬間、小さな手がまた袖を引っ張った。


「お兄ちゃん!」


「早く行こ!」


「……はいはい」


 苦笑しながら園児たちについて歩き出す。


 その後ろ姿を見て、栞と凪は顔を見合わせ、思わず笑みをこぼした。


 保育園いっぱいに響く子どもたちの笑い声。


 どうやら今日一日、正義は子どもたちに振り回されることになりそうだった。

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