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第62話 綺麗になった街

 地域清掃が終わる頃には、太陽はすっかり高く昇っていた。


 三人は河川敷の土手へ立ち、ゆっくりと辺りを見渡す。


「すごい……」


 正義が思わず声を漏らした。


 朝、あれほど目に付いていた空き缶やペットボトル、菓子袋や吸い殻は一つも見当たらない。


 見違えるほど綺麗になった河川敷。


 青々とした草原を、夏の風が心地よく吹き抜ける。


 川面は陽射しを受けてきらきらと輝いていた。


「めっちゃ綺麗になったなぁ」


 凪が満足そうに笑う。


「最初はどうなることか思ったけど」


「みんなでやると、こんなに変わるんですね」


 栞も嬉しそうに微笑んだ。


「地域の皆さんも一緒に頑張ってくださいましたから」


 三人が景色を眺めていると、犬の散歩をしていた男性が足を止めた。


「お疲れさま」


「今年もありがとう」


「おかげで気持ちよく散歩ができるよ」


 三人は笑顔で頭を下げる。


「ありがとうございます」


 さらに、自転車で通り掛かった女性も微笑んだ。


「暑い中、本当にご苦労さま」


 その一言だけを残し、去っていく。


 正義は静かにその後ろ姿を見送った。


 ごみを拾っただけ。


 ただそれだけのことだった。


 それなのに、こんなにも多くの人が笑顔になってくれる。


「……不思議ですね」


 ぽつりと呟く。


 栞が隣へ並んだ。


「何がですか?」


「こんなことで喜んでもらえるなんて思ってませんでした」


 栞は穏やかに頷く。


「小さなことでも、誰かにとっては大きなことなんです」


「だから私は、この活動が好きなんです」


 正義はもう一度、綺麗になった河川敷を見渡した。


 朝とはまるで違う景色。


 そこには、自分たちが汗を流した証が確かに残っている。


「……悪くないですね」


 その一言に、凪がにやりと笑う。


「また出た」


「『悪くない』」


「正義の最高の褒め言葉や」


「そんなつもりじゃ……」


 言い掛けた正義も、思わず笑ってしまう。


 栞も優しく笑みを浮かべた。


「少しずつでいいんです」


「誰かのために行動する喜びも、きっと少しずつ分かってきますから」


 正義は照れくさそうに頭を掻いた。


「……そうかもしれません」


 三人は並んで歩き出す。


 夏空の下。


 奉仕する喜びを胸に刻みながら、エンジェル部の最初の地域清掃は静かに幕を閉じた。

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