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第61話 広がる輪

 地域清掃が始まってから数時間。


 河川敷や公園は、朝とは見違えるほど綺麗になっていた。


「終わりましたね」


 栞が額の汗を拭いながら笑顔を見せる。


 正義はごみ袋を地面へ置き、その場にしゃがみ込んだ。


「疲れました……」


「もう動けません」


 大きく息を吐く正義に、凪が笑う。


「まだ高校一年生やろ?」


「おじいちゃんみたいやで」


「暑さには勝てません」


「それはうちも一緒や」


 三人は顔を見合わせて笑った。


 その時だった。


「皆さん、お疲れさま」


 地域自治会の男性が、冷えた麦茶の入ったクーラーボックスを持って近付いてきた。


「暑かったでしょう」


「どうぞ飲んでください」


「ありがとうございます!」


 栞が代表して頭を下げる。


 三人は冷えた麦茶を受け取り、一気に喉を潤した。


「生き返ります……」


 正義が思わず漏らす。


「大げさやなぁ」


 凪は笑いながら麦茶を飲み干した。


 すると今度は近所の女性たちがやって来た。


「アイス買ってきたよ」


「みんなで食べてね」


「本当ですか!」


 凪の目が輝く。


「ありがとうございます!」


 さらに別の男性も笑顔で声を掛けてきた。


「今年もエンジェル部のみんなが来てくれて助かったよ」


「毎年、本当にありがとう」


「街が綺麗になると気持ちがいいねぇ」


 次々と掛けられる感謝の言葉。


 正義は少し驚いたようにその光景を見つめていた。


「こんなに感謝されるんですね」


 栞は穏やかに頷く。


「去年、先輩たちと一緒に活動した時も、皆さんとても喜んでくださいました」


「エンジェル部のことを覚えていてくださる方も多いんです」


「先輩たちが積み重ねてきたものですね」


 正義は静かに呟く。


「はい」


「私たちは、それを受け継いでいるだけです」


 栞は少し誇らしそうに微笑んだ。


 その時、小さな男の子が母親と手を繋いで近付いてきた。


「あ、お掃除のお兄ちゃんたち!」


 三人は足を止める。


 男の子は照れくさそうに、小さな紙袋を差し出した。


「これ、お母さんと作ったクッキー!」


「ありがとう!」


 母親も優しく頭を下げる。


「いつも公園を綺麗にしてくださってありがとうございます」


「子どもも、とても喜んでいました」


 正義は少し戸惑いながら紙袋を受け取った。


「……ありがとうございます」


 男の子は満足そうに笑うと、大きく手を振って帰っていった。


 三人も笑顔で手を振り返す。


 しばらく歩いた後、正義は紙袋を見つめながら小さく呟いた。


「僕たちは、ごみを拾っただけなのに」


 栞は優しく答える。


「ごみを拾ったからじゃありません」


「誰かのために動いたことが、嬉しかったんだと思います」


 凪も笑顔で頷いた。


「こうやって少しずつ顔を覚えてもらえるんや」


「それがエンジェル部なんやで」


 正義は紙袋を大切そうに鞄へしまう。


 地域の人たちの笑顔。


 感謝の言葉。


 その一つひとつが、少しずつ心へ染み込んでいく。


 エンジェル部の輪は、学校の外でも確かに広がり始めていた。

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