表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/144

第60話 小さな新鮮

 地域清掃が始まって一時間ほどが過ぎた。


 河川敷のごみは少しずつ減り、公園の清掃へ移っていた。


 強い日差しが照りつけ、蝉の鳴き声が夏空へ響き渡る。


「暑い……」


 正義は額の汗を拭いながら呟いた。


「もう限界です」


「まだ午前中やで?」


 凪が笑う。


「これからが夏本番や」


「聞きたくありません」


 正義は肩を落とした。


 その様子に栞も思わず笑みをこぼす。


「少し休憩したら、向こう側も綺麗にしましょう」


 三人は公園の奥へ歩き始めた。


 その時だった。


「あら……」


 困ったような声が聞こえる。


 三人が振り向くと、高齢の女性が公園の入口で立ち尽くしていた。


 手には大きな買い物袋が二つ。


 しかし片方の袋が破れ、野菜やパンが地面へ散らばっている。


「大丈夫ですか!」


 栞が真っ先に駆け寄る。


 凪も慌ててしゃがみ込み、転がった野菜を拾い始めた。


「すみませんねぇ」


「袋が破れてしまって……」


 女性は申し訳なさそうに頭を下げる。


 正義は破れた袋を見つめ、小さく息を吐いた。


「凪」


「予備のごみ袋、ありますか」


「あるで!」


 凪は清掃用の新しいごみ袋を取り出した。


 正義はそれを二重に折り、破れた買い物袋へ被せる。


 持ち手の部分も結び直し、簡単な補強を施した。


「これで家までは持つと思います」


 女性は驚いたように目を丸くした。


「あらまぁ……」


「本当にありがとう」


「助かりました」


 三人は笑顔で頭を下げる。


「お気を付けて」


 女性は何度も振り返りながら帰っていった。


 その姿を見送ると、再び清掃活動へ戻る。


 しばらく歩いたところで、正義がぽつりと呟いた。


「……ありがとう、か」


 栞が隣で優しく微笑む。


「嬉しいですよね」


「誰かの役に立てたって思える瞬間です」


 凪も大きく頷く。


「うちは、この一言が聞きたくてボランティアしとるんかもしれへんなぁ」


 正義は少し考え込む。


 今まで誰かに感謝されることなど、ほとんどなかった。


 だからこそ。


 たった一言の「ありがとう」が、不思議なくらい胸へ残っていた。


「……悪くないですね」


 その小さな一言に、栞は嬉しそうに笑う。


「はい」


「きっと、これからもっとたくさん聞けますよ」


 正義は照れくさそうに視線を逸らした。


「……そうかもしれません」


 三人は再び火ばさみを手に取り、公園の清掃を続ける。


 夏の日差しは相変わらず厳しい。


 それでも正義の足取りは、ほんの少しだけ軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ