第57話 夏休みの予定表
終業式が終わると、教室は一気に賑やかになった。
「やっと夏休みや!」
凪が両手を突き上げる。
「遊ぶでー!」
「祭り行くでー!」
教室中が歓声に包まれる。
誰もが待ち望んでいた夏休み。
生徒たちの表情は明るかった。
正義も机へ突っ伏し、小さく息を吐く。
「ようやく休める……」
この数か月。
留年寸前と言われ、半ば強制的にエンジェル部へ入部した。
凪と出会い、一緒に勉強して。
体育祭では教師に噛み付き。
学級裁判では犯人扱いされ。
その後は、お互いの過去まで語り合った。
気付けば毎日が慌ただしかった。
だから、この夏休みくらいは何も考えず、ゆっくり過ごそう。
そう思っていた。
「正義ー!」
凪が笑顔で近付いてくる。
「部室行こ!」
「はいはい」
正義は重い腰を上げた。
夏休み前、最後の部活。
顔を出すだけなら構わない。
そんな気持ちだった。
三人が部室へ入る。
栞はいつもの笑顔で迎えた。
「お二人とも、一学期お疲れ様でした」
「お疲れ!」
凪が大きく伸びをする。
「これで明日から夏休みやなぁ」
「はい」
栞も微笑んで頷く。
そして、当たり前のように言った。
「明日からも、よろしくお願いします」
「……はい?」
正義が首を傾げる。
「夏休みもエンジェル部は活動しますよ」
部室の空気が止まる。
正義はゆっくりと栞を見る。
「……夏休みですよね?」
「はい」
栞は笑顔で頷く。
「休みですよね?」
「夏休みです」
「ですよね?」
「部活です」
正義の思考が停止した。
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
「休ませる気ないじゃないですか!」
思わず立ち上がる。
凪は腹を抱えて笑った。
「あははは!」
「正義、知らんかったん?」
「聞いてません!」
「言ってませんでしたから」
栞は悪びれる様子もなく微笑む。
「いや、そこは先に言ってください!」
「驚かせたかったので」
「そんなサプライズいりません!」
部室に笑い声が響く。
栞は鞄から一冊のファイルを取り出した。
「こちらが夏休みの活動予定です」
正義は嫌な予感しかしなかった。
恐る恐るファイルを開く。
一枚目。
「地域清掃」
二枚目。
「保育園ボランティア」
三枚目。
「老人ホーム慰問」
四枚目。
「冷やしうどん炊き出し」
五枚目。
「病院慰問」
六枚目。
「夏祭りバザー」
「……」
正義は静かにファイルを閉じた。
「どうしました?」
栞が首を傾げる。
正義は遠くを見るような目で呟く。
「僕の知ってる夏休みと違う……」
凪はまた吹き出した。
「休みやなくて、活動期間やな!」
正義は力なく天井を見上げる。
「僕の夏休み……返してください」
部室には、二人の笑い声がいつまでも響いていた。
こうして桜木正義の、予想外に忙しい夏休みが始まるのだった。




