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第56話 終業式ミサ

 七月下旬。


 一学期最後の日。


 まだ登校する生徒もまばらな早朝。


 エンジェル部の三人は、始業前から礼拝堂へ集まっていた。


 この日は、一学期を締めくくる終業式ミサが行われる日である。


 エンジェル部は毎年、その準備を任されていた。


「まずは椅子を並べましょう」


 栞の声に合わせ、三人は静かに作業を始める。


 礼拝堂の椅子を整え、祭壇には季節の花を飾る。


 参列する生徒全員分の聖歌集を並べ、入口では受付の準備も進めていく。


 普段は賑やかな校舎とは違い、礼拝堂には厳かで穏やかな空気が流れていた。


 色鮮やかなステンドグラスから差し込む朝日が、祭壇を優しく照らしている。


「部活って、こういうこともするんですね」


 正義が感心したように呟く。


 栞は微笑みながら頷いた。


「エンジェル部は、教会のお手伝いも大切な活動なんです」


「学校だけではなく、地域や教会とも協力しながら活動しています」


「なるほど……」


 正義は礼拝堂を見渡した。


 想像していた以上に、本格的な活動だった。


 その時だった。


 礼拝堂の扉が静かに開く。


 一人の修道服姿の女性が、穏やかな笑みを浮かべながら入ってきた。


「おはようございます」


 柔らかな声が礼拝堂へ響く。


 栞は嬉しそうに頭を下げた。


「おはようございます、シスター」


 女性は優しく微笑み返す。


「皆さん、準備ありがとうございます」


 栞は正義と凪へ向き直った。


「こちら、小林美咲さんです」


「教会では『シスター小林』と呼ばれています」


「いつも私たちの活動を支えてくださっているんですよ」


 シスター小林は二人へ丁寧に一礼した。


「初めまして」


「小林美咲と申します」


「どうぞ気軽に、シスター小林と呼んでください」


 柔らかな笑顔に、正義も自然と背筋を伸ばす。


「桜木正義です」


「よろしくお願いします」


「日向夏凪です!」


「よろしくお願いします!」


 シスター小林は嬉しそうに頷いた。


「栞さんから、お二人のお話は伺っています」


「エンジェル部へ入ってくださって、本当にありがとうございます」


 その言葉に、正義は少し照れくさそうに頭を掻いた。


「まだ入ったばかりで、何もできていませんけど」


「そんなことはありません」


 シスター小林は穏やかに首を横へ振る。


「誰かのために行動しようと思う気持ちが、何より大切なんです」


「その気持ちがあれば、人は少しずつ成長していけますから」


 優しく語りかけるその声には、不思議と人を安心させる温かさがあった。


 凪は思わず栞へ小声で囁く。


「めっちゃ優しい人やな」


「でしょう?」


 栞はどこか誇らしげに微笑む。


 やがて礼拝堂の鐘が静かに鳴り響いた。


 生徒たちが次々と礼拝堂へ集まり、厳かな空気が満ちていく。


 エンジェル部の三人は入口へ立ち、生徒たちを笑顔で迎えた。


 間もなく、一学期最後の終業式ミサが始まる。


 礼拝堂いっぱいに祈りの歌声が響き渡り、静かで穏やかな時間が流れていった。


 こうして、一学期最後の日が幕を開けたのだった。

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