第43話 信じてた
放課後。
長かった一日が終わった。
修学旅行代紛失事件。
学級裁判。
最終公判。
そして封筒の発見。
ここ数日、二年二組を騒がせていた騒動はようやく幕を下ろした。
校舎を出る頃には、空は夕焼け色に染まっていた。
オレンジ色の光が校庭を照らしている。
部活動へ向かう生徒たち。
下校する生徒たち。
そんな人の流れの中を、三人は並んで歩いていた。
「終わったなぁ」
凪が大きく伸びをする。
「長かったわ」
「そうですね」
栞も頷いた。
「本当に色々ありました」
「主に面倒事ですけどね」
正義が言う。
「お前は最後までそれやな」
凪が呆れたように笑った。
三人はしばらく並んで歩く。
夕方の風が心地良い。
もうあの重苦しい教室の空気もない。
不思議と足取りも軽かった。
やがて。
凪がぽつりと口を開く。
「なあ」
「何ですか」
「うちら」
凪は前を向いたまま言った。
「最初から信じてたからな」
正義の足がほんの少しだけ止まる。
凪は気付かないまま続けた。
「第一公判の時も」
「第二公判の時も」
「最終公判の時も」
「一回も疑っとらん」
真っ直ぐな言葉だった。
栞も静かに頷く。
「はい」
「私もです」
夕日に照らされた横顔は穏やかだった。
「正義君はそんなことしません」
「だから信じていました」
当たり前のように言う。
まるで呼吸をするように。
そこに迷いはなかった。
正義は少しだけ視線を逸らす。
「そうですか」
短い返事。
だが。
それ以上の言葉が出てこなかった。
凪はそんな正義の横顔を見て笑う。
「何や」
「照れとるやん」
「照れてません」
「照れとる」
「照れてません」
「分かりやすいなぁ」
「気のせいです」
即答だった。
栞が思わず吹き出す。
「ふふっ」
正義はますます不機嫌そうな顔になった。
だが。
本当に不機嫌なわけではない。
それくらい二人には分かっていた。
「まあ」
凪が言う。
「友達やしな」
さらりと言った。
その言葉に。
正義は少しだけ目を瞬かせた。
友達。
あまり聞き慣れない言葉だった。
「そうですね」
栞も自然に頷く。
「私たち友達です」
当たり前のように言う。
正義は返事に困った。
友達。
そう呼ばれることに慣れていない。
だから何と言えばいいのか分からない。
「何ですか」
凪がニヤニヤしながら覗き込む。
「いや」
正義は視線を逸らした。
「別に」
いつもの返事だった。
凪が吹き出す。
「出た」
「別にや」
「便利なんですよ」
「便利ちゃうやろ」
栞も笑った。
三人の笑い声が夕暮れの道に響く。
空はゆっくりと茜色へ変わっていく。
学級裁判は終わった。
傷が消えたわけではない。
全部が元通りになったわけでもない。
それでも。
正義は思う。
今回だけは少し違った。
最後まで信じてくれる人がいた。
最後まで隣にいてくれる人がいた。
それが少しだけ嬉しかった。
もちろん。
そんなことは口にしない。
絶対に。
だから代わりに。
「別に」
小さく呟く。
「またそれか」
凪が笑った。
栞も楽しそうに笑う。
夕焼けに染まる帰り道。
三人の影は並んで長く伸びていた。
その距離は。
もう誰が見ても友達のものだった。




