第40話 最終公判
最終公判当日。
昼休み。
二年二組の教室には重苦しい空気が漂っていた。
誰も笑わない。
誰も雑談をしない。
修学旅行代紛失事件。
その結論を出すための最後の話し合いが始まろうとしていた。
教卓の前には学級委員長の菊川柊斗。
その表情も険しい。
「それじゃあ始める」
教室が静まり返る。
誰もが分かっていた。
今日で終わる。
良くも悪くも。
今日で決着が付く。
「まず確認する」
菊川が言う。
「新しい証拠は見つかっていない」
教室がざわつく。
エンジェル部の調査でも成果はなかった。
藤原の証言も変わらない。
封筒は未だ行方不明。
状況は何も変わっていなかった。
「結局さ」
一人の男子生徒が口を開く。
「一番可能性が高いのは桜木だろ」
その言葉に数人が頷く。
「最後に教室にいたし」
「他に候補いないしな」
「可能性としては一番高い」
少しずつ空気が傾いていく。
栞は唇を噛んだ。
凪も険しい顔になる。
「待ってください」
栞が立ち上がる。
「だからといって犯人とは限りません」
「証拠がありません」
「でも他に誰がいるんだよ」
女子生徒が言った。
「誰か候補いる?」
栞は言葉に詰まる。
真実は分からない。
だからこそ。
決めつけてはいけないと思う。
だが。
今の栞にはそれを証明する材料がなかった。
「うちも反対や」
凪が立ち上がる。
「証拠ないやろ」
「でも桜木以外の可能性もないだろ」
「あるかもしれんやん!」
「だったら出してくれよ」
凪も黙り込む。
教室が静まった。
誰も答えられない。
その沈黙が。
かえって正義への疑惑を強くしていた。
教室後方。
正義は窓際の席に座っていた。
静かだった。
いつも通り。
何も感じていないように見える。
だが。
違った。
胸の奥が少しずつ冷えていく。
ひそひそ声が聞こえる。
視線も感じる。
疑われていることも分かる。
それでも反論する気にはなれなかった。
どうせ信じない。
そんな考えが頭をよぎる。
昔もそうだった。
決めつけられる。
誤解される。
話を聞いてもらえない。
だから期待しない。
その方が楽だから。
「桜木」
菊川が呼ぶ。
正義が顔を上げる。
「何か言うことはあるか?」
教室中の視線が集まる。
沈黙。
そして。
「ありません」
短い返事だった。
教室がざわつく。
「否定しないのかよ」
「普通もっと何か言うだろ」
「怪しく見えるぞ」
そんな声が飛ぶ。
正義は何も言わない。
言っても無駄だと思っているからだ。
「違います!」
栞が声を上げる。
教室が静まる。
「桜木君はやっていません!」
「どうして言い切れるの?」
誰かが尋ねた。
栞は真っ直ぐ前を見る。
「信じているからです」
教室がざわつく。
「それは証拠じゃないだろ」
「感情論じゃん」
「そうかもしれません」
栞は頷いた。
「でも私は信じています」
「最後まで」
凪も立ち上がる。
「うちもや」
「桜木は犯人ちゃう」
「根拠は?」
「こいつを知っとるからや」
だが。
クラスの空気は変わらない。
むしろ。
さらに冷たくなっていく。
信頼と証拠は違う。
その現実が二人へ突き付けられていた。
菊川は苦しそうな顔をする。
本当はやりたくない。
だが。
このままでは終わらない。
学級委員長として決着を付けなければならない。
そう思っていた。
やがて。
重い沈黙の後。
菊川が口を開く。
「……多数決を取る」
その瞬間。
栞の顔から血の気が引いた。
「待ってください!」
「待たれへん!」
凪も叫ぶ。
だが。
教室の空気は止まらない。
誰もが疲れていた。
誰もが答えを欲しがっていた。
正しい答えではなく。
納得できる答えを。
正義は目を閉じた。
もういい。
そう思いかける。
教室の空気は最悪だった。
そして。
判決の瞬間が迫っていた。




