表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/159

第37話 第二公判

 翌日。


 昼休み。


 二年二組では再び学級裁判が開かれていた。


 教卓の前には学級委員長の菊川柊斗。


 教室全体を見渡しながら口を開く。


「それじゃあ始める」


 教室が静まる。


 昨日の第一公判から一日。


 エンジェル部は独自調査を行っていた。


 藤原への聞き取り。


 当日の状況確認。


 封筒がなくなった可能性の検証。


 だが。


 結果は芳しくなかった。


「竜胆さん」


 菊川が言う。


「調査結果をお願いします」


 栞が立ち上がる。


 少し緊張した表情だった。


「まず藤原さんに確認しました」


「封筒は朝の時点で確かにありました」


「体育の前にも確認しています」


 皆が耳を傾ける。


「その後、昼休みに封筒がなくなっていることに気付きました」


 そこまでは既に分かっている話だ。


「それで?」


 誰かが尋ねる。


 栞は少しだけ言葉に詰まる。


「……それ以上は分かりませんでした」


 教室がざわついた。


「結局何も分からないじゃん」


「そうなるよな」


「じゃあやっぱり……」


 嫌な空気が流れ始める。


 栞は悔しそうに唇を噛んだ。


 昨日の放課後。


 凪と一緒に必死に調べた。


 だが決定的なものは何一つ見つからなかった。


「日向夏さんは?」


 菊川が尋ねる。


 凪が立ち上がる。


「うちも聞き込みした」


「でも怪しいやつはおらんかった」


「つまり?」


「分からん」


 凪は正直に答えた。


 教室が再びざわつく。


「じゃあやっぱり桜木じゃないの?」


「他に候補いないし」


「最後に教室にいたんだろ?」


 昨日よりも空気が悪い。


 調査しても何も出なかった。


 それが逆に正義への疑惑を強めていた。


「待ってください」


 栞が言う。


「だからといって桜木君が犯人だとは――」


「でも可能性は高いよな」


 男子生徒が言う。


「だって最後にいたんだし」


「それしか手掛かりないじゃん」


 栞は言葉に詰まる。


 反論したい。


 だが。


 証拠がない。


 それは事実だった。


 教室の視線が少しずつ正義へ集まっていく。


 窓際の席。


 正義は静かに座っていた。


 いつも通り。


 何も変わらないように見える。


 だが。


 少しだけ違った。


 視線が痛い。


 ひそひそ話が聞こえる。


 自分が疑われていることも分かる。


 それでも。


 反論する気にはなれなかった。


 どうせ信じない。


 そんな考えが頭をよぎる。


 昔からそうだった。


 決めつけられる。


 誤解される。


 話を聞いてもらえない。


 だから期待しない。


 その方が楽だから。


「桜木」


 不意に菊川が呼んだ。


 正義が顔を上げる。


「何か言うことあるか?」


 教室中の視線が集まる。


 沈黙。


 数秒後。


 正義は小さく答えた。


「ありません」


 それだけだった。


 教室がざわつく。


「否定しないのかよ」


「普通もっと言うことあるだろ」


「怪しく見えるぞ」


 そんな声が飛ぶ。


 正義は何も言わない。


 否定しても意味がない。


 そう思っていた。


 その時だった。


「怪しいから犯人なんですか?」


 栞の声だった。


 教室が静まる。


「証拠もないのに」


「印象だけで決めるんですか?」


 昨日よりも強い声だった。


 だが。


 クラスの空気は変わらない。


 むしろ。


 疑惑は少しずつ大きくなっていた。


 菊川も苦しそうな顔をしている。


 学級委員長として公平でありたい。


 だが状況は正義に不利だった。


「今日はここまでにしよう」


 菊川が言う。


「明日、最後の話し合いをする」


 最終公判。


 誰かがそう呟いた。


 教室に重い空気が落ちる。


 生徒たちは静かに席を立った。


 その中で。


 正義だけは窓の外を見ていた。


 平気なふりをしている。


 だが。


 栞と凪には分かっていた。


 少しずつ傷付いていることを。


 そして。


 最終公判はもう目前まで迫っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ