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第33話 消えた封筒

 体育祭が終わって数日。


 二年二組では修学旅行の準備が少しずつ始まっていた。


 行き先の説明。


 班決め。


 持ち物の確認。


 そして今日。


 修学旅行代の集金日だった。


「忘れたやついないかー?」


 昼休み前。


 学級委員が教室で声を上げる。


「大丈夫でーす」


「ちゃんと持ってきた」


「三万円飛んだら泣くぞ」


 教室に笑いが起きる。


 その中で。


 藤原真央も鞄の中を確認していた。


 茶色の封筒。


 表には自分の名前。


 中には修学旅行代の三万円。


 確かに入っている。


 藤原は安心したように封筒を鞄へ戻した。


 その時。


 チャイムが鳴る。


「体育だ!」


 生徒たちが一斉に立ち上がる。


 女子は更衣室へ。


 男子は男子更衣室へ向かう。


 教室はあっという間に空になっていく。


「桜木、行かないのか?」


 男子生徒が声を掛ける。


「トイレ寄ります」


 正義はそう答えた。


「相変わらずマイペースだな」


 男子生徒は苦笑しながら教室を出て行く。


 数分後。


 正義も教室を後にした。


 その時は。


 誰も気にしていなかった。


 それが後に大騒動へ発展することを。


 体育の授業が終わる。


 生徒たちは着替えを済ませ、昼休みの教室へ戻ってきた。


 その時だった。


「え……?」


 小さな声が響く。


 藤原真央だった。


 彼女は机の中を見ている。


 鞄の中も探している。


 何度も確認している。


 だが。


 顔色がどんどん青くなっていった。


「どうしたの?」


 友人が声を掛ける。


 藤原は震える声で答えた。


「ない……」


「え?」


「修学旅行のお金……」


 教室が静まり返る。


「封筒がない……」


 一瞬。


 誰も意味を理解できなかった。


 だが。


「三万円入ってたやつ?」


 誰かが尋ねる。


 藤原は小さく頷いた。


 その瞬間。


 教室が騒然となる。


「は!?」


「ちょっと待って!」


「なくなったの!?」


「嘘だろ!?」


 藤原は慌てて鞄をひっくり返した。


 机の中を見る。


 ロッカーを見る。


 教科書の間も探す。


 だが。


 ない。


 本当にない。


「落としたんじゃない?」


「いや、教室来てから鞄開けてない」


「じゃあどこ行ったんだよ」


 ざわざわと不安が広がっていく。


 そして。


「盗難じゃないのか……?」


 誰かが呟いた。


 一気に空気が変わった。


「いや、三万円だぞ」


「洒落にならないだろ」


「警察案件じゃん……」


 教室中に緊張が走る。


 三万円。


 高校生にとっては大金だ。


 悪ふざけでは済まされない。


 誰も笑わない。


 誰も冗談だと思わない。


 その時だった。


「最後に教室にいた人いたっけ?」


 誰かがそう言った。


 教室が静まる。


 皆が記憶を辿る。


 そして。


 藤原がはっと顔を上げた。


「あ……」


「どうした?」


「そういえば……」


 藤原は戸惑いながら口を開く。


「体育の前」


「最後に教室にいたの桜木君だったと思う」


 一瞬で空気が変わった。


 何人もの視線が教室後方へ向く。


 そこには。


 いつも通り無表情で本を読んでいる桜木正義の姿があった。


「桜木……?」


「確かに最後だったよな」


「トイレ行くって言ってた」


「そういえばそうだ」


 小さな声が広がる。


 まだ誰も犯人だとは言っていない。


 だが。


 疑惑は確かに生まれていた。


 正義はようやく顔を上げる。


「何ですか」


 いつもと変わらない声だった。


 しかし。


 二年二組の空気はもう変わり始めていた。


 後に『学級裁判』と呼ばれる騒動の始まりだった。

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