表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/159

第19話 体育祭開催

 中間テストが終わって数日。


 聖フェリス学園は、すっかり体育祭ムードに包まれていた。


 校舎のあちこちには体育祭のポスターが貼られ、昼休みになれば実行委員たちが忙しそうに走り回っている。


 放課後にはグラウンドから威勢のいい掛け声が聞こえ、運動部の練習にも熱が入っていた。


 学園全体がどこか浮き足立っている。


 そんな季節だった。


 そして二年二組。


 ホームルームの時間。


「よし」


 担任の松田が教卓を軽く叩く。


「今日から体育祭の準備を始める」


 その瞬間だった。


「待ってました!」


「今年こそ優勝だ!」


「綱引きだけは勘弁してくれ!」


 教室が一気に盛り上がる。


 体育祭は学園最大級の行事の一つだ。


 楽しみにしている生徒も多い。


 だが。


 そんな中で一人だけ顔色の悪い生徒がいた。


 日向夏凪である。


「終わった……」


 小さく呟いた。


「まだ始まってませんよ」


 前の席から栞が振り返る。


「始まる前から終わっとるんや……」


 凪は机へ突っ伏した。


「どうしたんですか?」


「嫌な予感しかしいひん」


「どんな予感です?」


「リレー」


 即答だった。


「絶対リレーや」


 断言する。


 栞は不思議そうに首を傾げた。


「でも日向夏さん、陸上部だったんですよね?」


「元、や」


 凪は小さく訂正する。


「元陸上部や」


「それでも速いんじゃないですか?」


「そういう問題やないんや……」


 凪は遠い目をした。


 栞には意味が分からない。


 だが。


 正義だけは理解していた。


 心臓病。


 陸上を辞めた理由。


 今でも走りたい気持ち。


 それを知っているのは、今のところ自分だけだった。


「まずは種目を決めるぞ」


 松田が言う。


 教室が再び盛り上がる。


「借り物競走!」


「障害物競走!」


「玉入れ!」


「綱引き!」


 候補が次々に挙がる。


 そして。


「リレーはどうする?」


 学級委員の一言だった。


 凪が静かに天井を見上げる。


「来た……」


 諦めたような声だった。


 次の瞬間。


 教室中から声が飛ぶ。


「日向夏だろ」


「決まりじゃん」


「元陸上部だし」


「一番速いだろ」


「アンカー頼む!」


「絶対勝てる!」


 予想通りだった。


 誰も迷わない。


 誰も疑問を抱かない。


 当然のように凪の名前が挙がる。


 それほどまでに日向夏凪は有名だった。


 明るくて。


 誰とでも仲が良くて。


 運動神経も抜群。


 クラスの誰もが適任だと思っていた。


 だからこそ。


「いや、その……」


 凪は言葉に詰まる。


 断りたい。


 だが断れない。


 理由も説明したくない。


 そんな感情が胸の中で絡まり合う。


「日向夏さん?」


 栞が心配そうに声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫や」


 凪は笑った。


 いつもの笑顔だった。


 明るくて。


 元気で。


 誰も心配しない笑顔。


 だが。


 正義には分かる。


 それが無理をして作った笑顔だということを。


 教室では話が進んでいく。


「リレーは日向夏でいいだろ」


「異議なし」


「賛成」


 勝手に流れが出来上がっていく。


 凪は何も言えない。


 ただ笑うことしかできなかった。


 その姿を見ながら。


 正義は小さく眉をひそめる。


 体育祭。


 それは多くの生徒にとって楽しい行事だ。


 だが。


 日向夏凪にとっては違うらしい。


 少なくとも今は。


 誰よりも苦しそうな顔をしていた。


 そして。


 その理由を知っているのは、今のところ桜木正義だけだった。


 体育祭の準備は始まったばかりだ。


 だが同時に。


 日向夏凪がずっと避け続けてきた問題もまた、静かに動き始めていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ