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第18話 迷子の女の子

 中間テスト終了のお祝いを終えた帰り道。


 夕暮れの商店街は、多くの買い物客で賑わっていた。


 夕飯の買い出しをする主婦。


 学校帰りの学生。


 仕事帰りの会社員。


 人々の笑い声と活気が街に溢れている。


「いやぁ、ええ日やったな」


 凪が満足そうに言った。


「補習回避」


「たこ焼き」


「クレープ」


「完璧や」


「基準がおかしいですね」


 正義は呆れたように返す。


 その隣で栞が小さく笑った。


「でも楽しかったですね」


「せやろ?」


「せやろ?」


 なぜか凪が得意げだった。


 そんな時だった。


「……うぅ」


 かすかな泣き声が聞こえた。


 三人は同時に足を止める。


 商店街の片隅。


 ベンチの近くに、小さな女の子が立っていた。


 年齢は五歳くらいだろうか。


 目には涙が浮かび、不安そうに辺りを見回している。


「迷子ですね」


 栞が言った。


「迷子やな」


 凪も頷く。


 正義は嫌な予感しかしなかった。


「警察呼びましょう」


「その前に話を聞きましょう」


 栞は即答した。


 やっぱりそうなった。


 栞は女の子の前へしゃがみ込む。


「どうしたの?」


 優しく声を掛ける。


 女の子は涙を拭きながら答えた。


「おかあさんとはぐれちゃった……」


 栞は安心させるように微笑んだ。


「大丈夫ですよ」


「一緒に探しましょう」


 凪も隣へしゃがみ込む。


「お姉ちゃんらに任しとき」


「絶対見つけたるからな」


 女の子は少しだけ安心したようだった。


 こうして。


 三人は迷子探しを始めることになった。


 まずは情報収集である。


「お名前は?」


「みゆ」


「何歳?」


「ごさい」


「お母さんはどんな人?」


 栞が優しく質問する。


 凪が緊張をほぐしながら話を聞く。


 そして正義が情報を整理していく。


 意外にも連携は悪くなかった。


「最後にお母さんといた場所は?」


 正義が尋ねる。


 みゆは少し考えてから指を差した。


「あっち」


 指差した先は商店街中央の広場だった。


「広場か」


「人多いなぁ」


 凪が眉をひそめる。


「でも探すしかありませんね」


 栞は立ち上がった。


「行きましょう」


 三人と一人は商店街を歩き始める。


 広場へ向かいながら聞き込みを続ける。


 すると十分ほど経った頃だった。


「すみません!」


 広場の反対側から女性の声が聞こえた。


 三人が振り向く。


 そこには必死な表情で辺りを探している女性がいた。


 みゆが目を見開く。


「あ!」


 次の瞬間。


 女の子は駆け出した。


「おかあさーん!」


 女性も振り返る。


 そして。


「みゆ!」


 二人は勢いよく抱き合った。


 母親の目には涙が浮かんでいる。


「よかった……」


「本当によかった……」


 何度も娘を抱き締める。


 その光景を見て、栞はほっと胸を撫で下ろした。


 凪も安心したように笑う。


 正義も小さく息を吐いた。


 母親は三人へ深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」


「本当に助かりました」


 栞は慌てて首を振る。


「そんな」


「無事で良かったです」


 凪も笑顔で手を振る。


「気ぃ付けて帰りやー」


 みゆも小さな手を振った。


「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」


 三人はその姿を見送る。


 やがて親子の姿が見えなくなった頃。


 栞が小さく呟いた。


「良かったです」


 本当に嬉しそうだった。


 まるで自分のことのように。


 その笑顔を見ていると、正義は少しだけ不思議な気持ちになる。


 困っている人を助ける。


 ただそれだけのこと。


 面倒だし、時間も掛かる。


 少し前の自分なら避けていたかもしれない。


 けれど。


 今日の帰り道は悪くなかった。


 むしろ少しだけ達成感がある。


「どうしました?」


 栞が首を傾げる。


「別に」


 正義は肩を竦めた。


 そして小さく付け加える。


「こういうのも悪くないかもしれません」


 一瞬。


 栞と凪が顔を見合わせた。


 そして。


 二人とも嬉しそうに笑った。


 夕暮れの商店街。


 エンジェル部として初めての人助けは、大成功だった。


 それは小さな出来事だったかもしれない。


 けれど。


 竜胆栞にとっては大切な一歩だった。


 そして桜木正義にとってもまた――


 エンジェル部という場所を、少しだけ好きになる出来事だったのかもしれない。

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