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第15話 答え合わせ禁止令

 中間テスト最終日。


 最後の科目が終わった瞬間だった。


「終わったぁぁぁぁ!」


 凪が机へ突っ伏した。


 教室中に響き渡る声だった。


「自由や!」


「解放や!」


「もう勉強せんでええんや!」


 完全に燃え尽きていた。


 周囲の生徒たちも似たような反応をしている。


 中間テスト終了。


 長かった戦いがようやく終わったのだ。


 一方。


 栞は静かに筆箱を片付けていた。


「お疲れ様です」


「疲れた……」


 凪は机に顔を埋めたまま答える。


「脳みそ使い切った……」


「元からそんなに使ってへんやろ」


 近くの男子生徒が茶化す。


「うるさい!」


 凪が即座に反撃した。


 教室に笑いが起きる。


 いつもの二年二組だった。


 放課後。


 三人はいつものようにエンジェル部の部室へ集まっていた。


 窓から夕日が差し込んでいる。


 だが今日は違った。


 問題集がない。


 参考書もない。


 勉強会もない。


 それだけで部室の空気が軽く感じられた。


「終わりましたね」


 栞が嬉しそうに言う。


「終わったなぁ……」


 凪は椅子へもたれ掛かった。


「生きて帰って来られたわ」


「大袈裟ですね」


 正義は苦笑する。


「大袈裟ちゃう」


「ほんまに命懸けやったんや」


 凪は真顔だった。


 ここ数週間。


 毎日のように勉強していた。


 放課後は勉強会。


 休日も問題集。


 逃げ出したくなったことも一度や二度ではない。


 それでも何とか最後まで走り切った。


「さて」


 栞が鞄から問題用紙を取り出した。


「せっかくですし、答え合わせを――」


「禁止」


 即座に正義が止めた。


 栞の動きが止まる。


「え?」


「答え合わせ禁止です」


「なぜですか?」


 栞が首を傾げる。


 正義は呆れたように答えた。


「今さら結果は変わりません」


「答え合わせしても不安になるだけです」


 一瞬。


 部室が静まり返る。


 そして。


「正しい!」


 凪が机を叩いた。


「めっちゃ正しい!」


「今さら知りたない!」


「希望を持ったまま生きたい!」


 全力で賛成だった。


 栞は少し考える。


「でも気になりませんか?」


「なりません」


「ならへん」


 二人の返答は異常に早かった。


 栞はしばらく問題用紙を見つめる。


 そして。


「分かりました」


 素直に鞄へ戻した。


「ナイス判断!」


 凪が拍手する。


「そんなに嫌なんですか」


「嫌や!」


 即答だった。


「返却日まで夢見させてほしいねん!」


 正義も頷く。


「現実は遅い方がいいです」


「そこは意見合うんやな」


 凪が笑った。


 勉強会では散々揉めていた二人だが、こういう時だけ妙に息が合う。


 栞はそんな二人を見て苦笑した。


「仲良いですね」


「よくない」


「よくないな」


 二人同時だった。


 今度は栞が吹き出す。


 しばらく笑い声が続いた。


 やがて夕方。


 三人は揃って校門を出る。


 夕焼けが街を赤く染めていた。


「久しぶりやな」


 凪が空を見上げる。


「何がですか?」


「勉強せんでええ放課後」


 その言葉に栞も頷いた。


 確かにそうだった。


 ここ最近は毎日勉強会だった。


 放課後と言えば問題集。


 そんな日々が続いていた。


 だから今日の解放感は特別だった。


「結果は気になりますけどね」


 栞が言う。


「気にしたら負けや」


 凪は即答する。


「返却日休みたい」


「駄目です」


「まだ返ってきてへんのに!」


「だからです」


 正義は二人のやり取りを聞きながら歩く。


 少し前までなら。


 放課後は一人だった。


 誰とも話さず帰宅していた。


 けれど今は違う。


 隣には栞がいて。


 凪がいて。


 騒がしい。


 本当に騒がしい。


 だが。


 悪くないと思ってしまう自分もいた。


「桜木」


 凪が声を掛ける。


「何ですか」


「赤点仲間になろうな」


「嫌です」


「即答やな!」


 笑い声が夕暮れの道へ響く。


 久しぶりに勉強から解放された放課後。


 三人の足取りは、どこかいつもより軽かった。


 そして。


 数日後に待つ結果発表のことを、この時の三人はまだ深く考えていなかったのである。

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