第156話 おかえり
週明け。
放課後。
エンジェル部部室。
正義と凪は、いつものように部室で過ごしていた。
コンコン。
静かなノックの音が響く。
「どうぞ」
扉がゆっくりと開く。
そこに立っていたのは――
栞だった。
二人は同時に立ち上がる。
栞は申し訳なさそうに頭を下げた。
「正義くん」
「凪さん」
「ごめんなさい」
「勝手に辞めるなんて言ってしまって」
部室は静まり返る。
正義は優しく微笑んだ。
「分かってたよ」
栞は顔を上げる。
「えっ……?」
「辞めることが本心じゃないって」
「分かってたから」
正義は机の引き出しを開け、一枚の紙を取り出した。
退部届だった。
「提出してない」
栞は目を丸くする。
「正義くん……」
すると凪がニヤリと笑う。
「そんなこと言っとるけどな」
「正義、栞が戻ってこんかったらどうしようって、毎日ソワソワしとったんやで」
正義は慌てて否定する。
「してない!」
「してたやん!」
「してない!」
「しとった!」
栞は思わず吹き出した。
久しぶりに部室へ笑い声が戻る。
正義は照れ隠しに咳払いを一つすると、退部届を栞へ差し出した。
「これ」
「栞が決めて」
栞は静かに退部届を受け取る。
しばらく見つめたあと、小さく微笑んだ。
「もう、必要ありません」
ビリッ。
退部届は真っ二つに裂かれる。
さらにもう一度。
もう一度。
紙は細かく破られ、二度と元には戻らなかった。
栞は二人を真っ直ぐ見つめる。
「皆さん」
「……ただいま」
正義は穏やかに笑った。
「おかえり」
次の瞬間。
凪が勢いよく栞へ飛び付く。
「待っとったで!」
「凪さん!」
三人は笑い合った。
その笑い声が部室いっぱいに広がる。
ガラッ!
勢いよく部室の扉が開く。
「栞さん!」
松田先生とシスター小林だった。
「退部するって聞いたぞ!」
「どういうことですか!?」
三人は顔を見合わせる。
正義が苦笑しながら答えた。
「あ、それならもう大丈夫です」
「今、解決しました」
「え?」
「ええっ!?」
二人はきょとんと目を丸くする。
栞は照れくさそうに笑いながら頭を下げた。
「ご心配をお掛けしました」
「私、エンジェル部を続けます」
松田先生は胸を撫で下ろした。
「そうか……」
「本当によかった」
シスター小林も嬉しそうに微笑む。
「神様に感謝ですね」
再び部室は笑い声に包まれた。
失いかけた居場所は、再び三人のもとへ帰ってきた。
エンジェル部は今日も変わらない。
誰かのために。
そして、大切な仲間のために。
三人の日常は、これからも続いていく。




