第152話 託した想い
その日の放課後。
エンジェル部部室。
部室には、正義と凪の二人だけがいた。
栞がいつも座っていた席は、今日も静かに空いている。
その光景が、胸を締め付けた。
しばらく重い沈黙が流れる。
やがて凪が、小さく口を開いた。
「……正義」
「栞との話、どうやった?」
正義は静かに窓の外へ目を向ける。
「分からない」
短い返事だった。
凪は何も言わず、その続きを待つ。
正義はゆっくりと息を吐く。
「でも」
「僕が言えることは、全部伝えた」
「本当は辞めたくないんじゃないのかって」
「自分の人生は、自分で決めろって」
一呼吸置く。
「栞のために」
「僕がしてあげられることは、全部した」
部室は静まり返る。
凪は静かに頷いた。
「……せやな」
「うちらにできることは、もうやり切った」
正義は栞の空席を見つめる。
「あとは――」
「栞次第だ」
その言葉には、迷いも後悔もなかった。
信じて待つ。
今の自分たちにできることは、それだけだった。
凪も栞の席へ視線を向け、小さく微笑む。
「栞なら、大丈夫や」
「きっと、自分で答えを見つけてくれる」
正義は静かに頷いた。
「ああ」
「僕も、そう信じてる」
夕日が部室を優しく照らす。
二人は何も言わず、静かに栞の帰りを待ち続けていた。




