第142話 風の噂
市民功労賞授与式から一週間後。
二学期の放課後。
エンジェル部の部室。
三人がいつものように活動報告書をまとめていると、松田が静かに部屋へ入ってきた。
「少しいいか」
「話しておきたいことがある」
いつになく真剣な表情だった。
三人も自然と背筋を伸ばす。
「何ですか?」
正義が尋ねると、松田は少し考えるように腕を組んだ。
「……あくまで風の噂なんだが」
一呼吸置く。
「今回の査問会議、実は理事会が裏で動いていたらしい」
三人は顔を見合わせた。
「理事会……ですか?」
栞が小さく呟く。
松田は静かに頷く。
「ああ」
「理事会から生徒会へ、かなり厳しい指示があったそうだ」
「学校予算の見直しを徹底するように、と」
「その中で、エンジェル部についても厳しく査問するよう求められたらしい」
正義は査問会議を思い返す。
顧問問題。
予算問題。
その二つが解決しても、活動実績だけは最後まで認められなかった。
あの時感じた違和感が、頭の中で少しずつ繋がっていく。
松田は続けた。
「理事会から相当厳しく詰められていたそうだ」
「だから生徒会も、終始廃部寄りの判断をせざるを得なかった……そんな話を耳にした」
部室に静かな空気が流れる。
凪がぽつりと呟いた。
「……だから、あんなに証拠を揃えても、最後まで認めてもらえへんかったんか」
正義も静かに頷く。
「そう考えると……辻褄は合います」
「最初から結論が決まっていたような、そんな違和感がありました」
栞も静かに俯く。
「私も……」
「生徒会の皆さん、とても苦しそうでした」
「本当は、あの人たちも辛かったのかもしれません」
松田は静かに首を横へ振る。
「ただ、これは確かな話じゃない」
「証拠もない」
「あくまで風の噂だ」
「だから、この話は胸の中にしまっておけ」
「噂だけで誰かを悪者にしちゃいけない」
「真実は、まだ分からないんだからな」
三人は静かに頷く。
だが、その日を境に。
三人の中で、新たな疑問が静かに芽生え始めていた。




