第140話 夏風邪
打ち上げから数日後。
二学期が始まり、学校にもいつもの日常が戻っていた。
しかし、その日。
正義の姿は教室になかった。
ホームルーム終了後。
栞は心配そうに松田へ尋ねる。
「松田先生」
「正義くんは、お休みですか?」
松田は苦笑しながら頷いた。
「ああ」
「査問会議や市民功労賞授与式で気を張り詰めすぎたんだろうな」
「夏風邪で寝込んでいるそうだ」
「一人暮らしだから、少し心配だな」
その言葉を聞いた栞と凪は顔を見合わせる。
「行きましょう」
「せやな」
二人は放課後、スーパーへ立ち寄る。
お粥の材料。
スポーツドリンク。
ゼリー。
果物。
風邪薬。
袋いっぱいに買い込み、正義のマンションへ向かった。
インターホンを押す。
しばらくして、ゆっくりと扉が開く。
「……え?」
寝癖のついた正義が驚いた表情を浮かべる。
「二人とも、どうしたの?」
栞は優しく微笑んだ。
「お見舞いです」
凪は袋を掲げる。
「病人は大人しく寝とらなあかん!」
二人はそのまま部屋へ入った。
栞は慣れた手つきで台所へ立つ。
「お粥を作りますね」
凪は窓を開け、部屋の空気を入れ替える。
散らかったテーブルを片付け、ゴミをまとめ始めた。
「凪」
「そこまでしなくてもいいよ」
「何言っとるの」
「病人は寝とればええの」
即答だった。
正義は思わず苦笑する。
やがて、湯気の立つお粥が出来上がる。
栞はベッドのそばへ腰を下ろし、器を差し出した。
「熱いので、ゆっくり召し上がってください」
正義は一口食べる。
優しい味が、弱った身体へゆっくりと染み渡っていく。
「……おいしい」
その一言に、栞は嬉しそうに微笑んだ。
食事を終えると、凪がスポーツドリンクを差し出す。
「水分もしっかり取ること」
「先生が言っとった」
「はいはい」
正義は素直に受け取った。
栞は穏やかな眼差しで正義を見つめる。
「今度は、私たちが支えます」
正義は少し驚いたように二人を見る。
査問会議では。
二人を守りたい一心で立ち上がった。
だけど今は。
弱った自分を、二人が当たり前のように支えてくれている。
その温かさが、胸に染みた。
「ありがとう」
照れくさそうに笑う正義。
栞も優しく微笑む。
「お互い様です」
凪は笑顔で親指を立てた。
「エンジェル部やからな!」
三人は顔を見合わせ、静かに笑った。
支えること。
支えられること。
そのどちらも、人を思いやる優しさから生まれる。
エンジェル部は今日も、小さな温もりに包まれていた。




