第138話 乾杯
正義のマンション。
テーブルの上には、栞が腕によりをかけて作った料理が並んでいた。
唐揚げ。
ポテトサラダ。
オムライス。
サンドイッチ。
どれも美味しそうな香りを漂わせている。
そこへ、凪が大きな保冷バッグを抱えて戻ってきた。
「飲み物持ってきたで!」
得意げに缶を机へ並べる。
「うちの冷蔵庫から持ってきた!」
「これで準備万端や!」
正義は一本手に取り、ラベルへ目を落とした。
数秒、固まる。
「……凪」
「これ、酒だぞ」
一瞬。
部屋が静まり返る。
凪は缶を覗き込む。
「あれ?」
もう一本確認する。
「あれ?」
さらに一本。
「……えぇぇっ!?」
顔がみるみる赤くなる。
「お父さんのやった!」
「ジュースと間違えて持ってきちゃった!」
缶はフルーツジュースのような可愛らしいデザイン。
一見しただけでは、お酒とは気付かない。
正義は深いため息をついた。
「お前な……」
「せっかく部活存続が決まったのに」
「未成年飲酒で廃部になったら笑えないぞ」
凪は慌てて両手を振る。
「違うって!」
「ほんまに間違えたんやって!」
栞は堪え切れず吹き出した。
「ふふっ……」
そして。
「あははは!」
三人は声を上げて笑った。
査問会議では流せなかった笑い。
今は心の底から笑うことができる。
正義は苦笑しながら財布を手に取る。
「仕方ない」
「コンビニへ行こう」
「今度はちゃんとジュースを買うぞ」
「はーい!」
凪は元気よく返事をした。
三人は近くのコンビニへ向かい、本物のジュースを買って戻る。
グラスへ注ぎ、正義が静かに持ち上げた。
「市民功労賞受賞」
栞もグラスを掲げる。
「エンジェル部存続」
凪は満面の笑みで続けた。
「そして!」
「最高の夏休みに!」
「乾杯!」
「「乾杯!」」
グラスが軽やかな音を立てる。
三人は料理を囲みながら、この夏休みの思い出を語り合った。
笑って。
食べて。
また笑って。
涙も、悔しさも、喜びも。
すべてを分かち合った三人だからこそ、この時間は何よりも幸せだった。
笑顔の絶えない夜は、ゆっくりと更けていった。




