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第12話 新入部員

 翌日。


 放課後。


 正義がエンジェル部の部室へ入ると、そこには既に栞の姿があった。


「こんにちは」


「どうも」


 いつものやり取りだった。


 正義は自分の席へ腰を下ろす。


 気付けば、この部室へ来ることも日課になりつつあった。


 認めたくはないが。


「野球部はどうだったんですか」


 何気なく尋ねる。


 栞は嬉しそうに笑った。


「勝ちましたよ」


「それは良かったですね」


「はい」


 本当に嬉しそうだった。


 自分が試合に出たわけでもないのに、まるで自分のことのように喜んでいる。


 そういう人だった。


 その時だった。


 勢いよく部室の扉が開く。


「おはようさん!」


「放課後です」


「細かいことはええねん!」


 元気いっぱいの声が響く。


 日向夏凪だった。


 いつも通りの明るい笑顔。


 だが昨日までとは少しだけ違う。


 どこか吹っ切れたような表情だった。


「うるさいですね」


「挨拶しただけや!」


 凪は抗議しながら椅子へ腰掛ける。


 そして。


 少しだけ真面目な顔になった。


「なあ」


「はい?」


 栞が首を傾げる。


 凪は少し迷うような素振りを見せた後、口を開いた。


「ウチも入ってええ?」


 一瞬。


 部室が静まり返る。


 最初に反応したのは栞だった。


「本当ですか!?」


 勢いよく立ち上がる。


「入ってくれるんですか!?」


「せや」


 凪は笑った。


「勉強も教えてほしいし」


「補習も回避したいし」


「それに――」


 そこで少しだけ照れ臭そうに頭を掻く。


「ここ居心地ええねん」


 栞が目を丸くした。


 凪は少し照れながら続ける。


「栞は優しいし」


「正義は口悪いけど教えるん上手いし」


「三人でおるん結構楽しい」


「だから」


 凪は笑った。


「ちゃんと入部したいな思って」


 数秒。


 栞は固まっていた。


 そして。


「日向夏さん!」


 嬉しそうな声を上げる。


「ありがとうございます!」


 今にも泣きそうな勢いだった。


 部員一人だった部活。


 ずっと一人で守ってきた部活。


 そこへ仲間が増える。


 嬉しくないはずがなかった。


 一方。


 正義は嫌そうな顔をしていた。


「何ですかその顔」


 栞が聞く。


「騒がしくなるなと」


「もう十分騒がしいやろ!」


 凪が机を叩く。


「自覚はあるんですね」


「あるわ!」


 部室に笑い声が響いた。


 栞は慌てて机の引き出しを開く。


 そして一枚の紙を取り出した。


「入部届です!」


「用意ええな!」


「ずっと待ってましたから!」


 栞は胸を張った。


 凪は思わず吹き出す。


「絶対今日やと思ってへんかったやろ?」


「思ってませんでした!」


「正直やな!」


 そんなやり取りをしながら。


 凪は入部届へ名前を書く。


 日向夏凪。


 丁寧な文字だった。


 最後の一画を書き終える。


 その瞬間。


 栞は本当に嬉しそうに笑った。


「これで部員三人です!」


「三人?」


 正義が首を傾げる。


「正義君もいますから」


「仮入部です」


「細かいことは気にしません」


 どこかで聞いたような台詞だった。


 凪が笑う。


「栞、たまに強引やな」


「最近気付きました」


 正義がため息を吐く。


 だが。


 その表情はどこか穏やかだった。


 気付けば。


 この部室は以前よりずっと賑やかになっていた。


 放課後に来る場所ができた。


 話す相手ができた。


 笑い声が増えた。


 それは凪だけではない。


 正義にとっても同じだった。


「改めてよろしくな!」


 凪が手を差し出す。


「今さらですね」


 そう言いながらも、正義はその手を軽く叩いた。


 凪は満足そうに笑う。


 栞はそんな二人を見て、心から嬉しそうに微笑んでいた。


 こうして。


 エンジェル部に新しい部員が加わる。


 竜胆栞。


 桜木正義。


 日向夏凪。


 三人のエンジェル部が始まった。


 まだ誰も知らない。


 この三人がこれから様々な出来事や騒動に巻き込まれ、


 笑って、


 悩んで、


 ぶつかって、


 少しずつ成長していくことを。


 それはまだ。


 始まったばかりだった。

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