第133話 奇跡
会議室は静まり返っていた。
市民功労賞。
誰も予想していなかった新たな事実。
その知らせを受け、生徒会役員は再び資料を開く。
副会長の柊は部活動規定を確認する。
会計の榊は活動資料と照らし合わせる。
書記の藤宮は、市役所からの正式連絡を記録していく。
誰も私情を口にしない。
規則。
事実。
証拠。
それだけを基に、静かな再協議が続いた。
数分後。
生徒会長・橘悠斗が静かに立ち上がる。
会議室の視線が一斉に集まった。
橘は静かに口を開く。
「市より正式な通知を確認しました」
「エンジェル部が行ってきた地域貢献活動は、『市民功労賞』の授与対象として正式に決定されています」
「また、その授与式において、本校を代表する活動として表彰されることも確認しました」
一呼吸置く。
「この事実は、本校部活動規定に定める『学校を代表する教育活動』に該当すると判断します」
誰も言葉を発しない。
橘は静かに資料を閉じた。
「以上を踏まえ、生徒会として結論を訂正します」
正義たちは息を呑む。
「エンジェル部の存続を認めます」
その瞬間。
栞の瞳から大粒の涙が溢れた。
「……よかった」
涙を拭うこともできず、その場で泣き崩れる。
凪も堪えていた涙が一気に溢れ出した。
「ほんまに……ほんまによかった……」
二人は互いの手を握り合い、声を上げて涙を流す。
正義は呆然と橘を見つめていた。
張り詰めていた緊張が、一気にほどける。
膝から力が抜け、そのまま椅子へ座り込んだ。
「……終わった」
その一言とともに、安堵の涙が静かに頬を伝う。
松田はそんな三人を見つめ、小さく笑った。
「よく頑張ったな」
シスター小林も涙を浮かべながら微笑む。
「皆さんの奉仕の心は、ちゃんと届いていましたね」
校長の梅原は静かに頷く。
「皆さんの努力が、このような形で認められたことを、一人の教育者として心から嬉しく思います」
理事長の柏木も静かに立ち上がった。
「生徒会の判断は、規則に基づく適切なものでした」
「そして、新たな事実が示された以上、結論を訂正することもまた、正しい判断です」
柏木は正義たちへ向かって一礼した。
「エンジェル部の皆さん」
「市民功労賞受賞、そして部活動存続、心よりお祝い申し上げます」
橘も静かに頭を下げる。
「エンジェル部の皆さん、おめでとうございます」
その言葉を合図に、会議室には自然と拍手が広がっていく。
正義は涙を拭いながら、栞と凪を見つめた。
三人は笑っていた。
涙でぐしゃぐしゃになりながら、それでも心から笑っていた。
積み重ねた努力は、決して無駄ではなかった。
誰かのために流した汗も。
誰かのために流した涙も。
そのすべてが、今日という奇跡へ繋がっていた。




