第132話 市民功労賞
校長の梅原は、しばらく無言のまま電話へ耳を傾けていた。
「……はい」
「はい」
「承知しました」
「ありがとうございます」
静かに受話器を置く。
会議室は、水を打ったような静けさに包まれていた。
誰も口を開かない。
梅原はゆっくりと全員を見渡す。
「皆さん」
「ただ今、市役所より正式な連絡が入りました」
その一言で、会議室の空気が変わる。
理事長の柏木も校長へ視線を向けた。
橘をはじめ、生徒会役員も静かに耳を傾ける。
正義たち三人も、固唾を呑んで校長を見つめていた。
梅原は手元のメモへ目を落とす。
「楠市長より、正式な通知内容をお伝えします」
一呼吸置く。
「夏休みを中心に、エンジェル部が継続して行ってきた地域貢献活動につきまして、市の審査の結果、その功績を高く評価し、『市民功労賞』を授与することが正式に決定したとのことです」
誰も動かなかった。
梅原は続ける。
「さらに、市民功労賞授与式において、本校を代表する地域貢献活動として、エンジェル部を表彰したいとの正式な申し出もいただきました」
静寂。
時間が止まったかのようだった。
正義は呆然と立ち尽くく。
栞は涙を浮かべたまま、言葉を失っている。
凪も思わず口元を押さえた。
松田は小さく目を見開く。
シスター小林は胸の前で静かに両手を組み、神へ感謝するように目を閉じた。
副会長の柊は資料へ視線を落とし、ゆっくりと部活動規定を開く。
会計の榊も驚きを隠せず、思わず橘を見る。
理事長の柏木は腕を組んだまま静かに目を閉じ、深く息を吐いた。
そして、生徒会長・橘悠斗は静かに校長へ問い掛ける。
「校長先生」
「その内容は、市からの正式な通知という認識でよろしいでしょうか」
梅原は静かに頷く。
「間違いありません」
「楠市長より、正式な決定事項として連絡を受けました」
橘は小さく目を閉じる。
そして、静かに資料を開いた。
会議室には再び、張り詰めた空気が流れ始める。
誰もが、この一本の電話によって、査問会議の結論が大きく動こうとしていることを感じていた。




