第131話 一本の電話
プルルルル……
静まり返った会議室に、一本の電話が鳴り響いた。
誰も動かない。
先ほどまで正義がぶつけた怒りの言葉が、まだ会議室に残っているようだった。
もう一度。
プルルルル……
書記の藤宮葵が静かに立ち上がる。
「失礼します」
受話器を取った。
「はい、生徒会室です」
会議室は静まり返っている。
誰もが無言のまま、その様子を見守っていた。
「……はい」
「はい」
「少々お待ちください」
藤宮は受話器を押さえ、校長へ向き直る。
「校長先生」
「市役所からお電話です」
校長の梅原が静かに立ち上がる。
「私にですか」
「はい」
「楠市長からです」
その名前に、会議室の空気がわずかに揺れた。
楠市長。
エンジェル部が半年間にわたり続けてきた地域貢献活動を、誰よりも近くで見守ってきた人物だった。
梅原は受話器を受け取る。
「お電話代わりました」
「梅原です」
電話の向こうから、楠市長の落ち着いた声が聞こえてきた。
『突然のお電話で申し訳ありません』
『至急、お伝えしたいことがありまして』
校長は静かに耳を傾ける。
「……はい」
「はい」
次の瞬間。
校長の表情がわずかに変わった。
「……えっ?」
その一言に、会議室中の視線が校長へ集まる。
生徒会長・橘悠斗。
副会長・柊誠。
会計・榊美咲。
書記・藤宮葵。
松田茂。
シスター小林。
理事長・柏木恒一。
そして、正義、栞、凪。
誰一人として口を開かない。
理事長の柏木も腕を組んだまま、険しい表情で校長を見つめていた。
校長は黙ったまま、電話の向こうの話へ耳を傾け続ける。
重苦しい空気が、会議室を包んでいた。




