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第125話 教師の覚悟

 放課後。


 職員室。


 松田は査問会議の資料へ目を落としていた。


 そこへ、シスター小林が静かに歩み寄る。


「松田先生」


 松田は顔を上げた。


「どうされました?」


 シスター小林は松田の前へ立つと、深く頭を下げる。


「お願いします」


「子どもたちを助けてあげてください」


 突然の言葉に、松田は目を見開いた。


「シスター……」


 シスター小林はゆっくりと顔を上げる。


「私は事務職員です」


「学校の規定がある以上、顧問にはなれません」


「でも、先生なら違います」


「先生なら、あの子たちを守ることができます」


 松田は黙って話を聞いていた。


「正義くんは、エンジェル部へ入って本当に変わりました」


「栞さんは誰よりも真面目に、人のために行動しています」


「凪さんは、いつも周りを笑顔にしてくれます」


「三人とも、この半年間、一度も手を抜きませんでした」


「休日も返上して、地域のために活動を続けてきたんです」


 シスター小林はもう一度、深く頭を下げる。


「お願いします」


「どうか、あの子たちの居場所を守ってあげてください」


 静かな職員室。


 松田は何も答えられなかった。


 その夜。


 仕事を終えた松田は、一人職員室へ残っていた。


 窓の外には、夕暮れの校庭が広がっている。


 机の上には、一枚のエンジェル部入部届。


 留年寸前だった正義へ、自分が渡したあの日の書類だった。


 松田は静かに手に取る。


 あの日。


 正義は嫌々入部した。


 それでも今では、誰よりも真剣に奉仕活動へ取り組んでいる。


 努力を惜しまない栞。


 いつも周囲を明るくする凪。


 三人は夏休みも返上し、人のために汗を流し続けた。


 その姿を、担任としてずっと見守ってきた。


「エンジェル部を勧めたのは……俺だ」


 松田は小さく呟く。


「ここまで頑張らせておいて」


「最後だけ見捨てるのか……」


 胸が締め付けられる。


 その時、不意に恩師の言葉が脳裏に蘇った。


『松田』


『生徒を信じられなくなったら、教師を辞めろ』


『教師は、知識だけを教える仕事じゃない』


『生徒の可能性を信じ、最後まで支える仕事だ』


 松田はゆっくりと目を閉じる。


 査問会議で必死に想いを語る三人。


 地域の人々から向けられた感謝の言葉。


 夏祭りで汗を流す姿。


 半年間の思い出が、次々と浮かんでは消えていく。


 やがて松田は静かに立ち上がった。


 迷いは、もうなかった。


「教師として」


「担任として」


「最後まで、あいつらを支えよう」


 そう呟くと、松田は職員室の明かりを消した。


 その足は、真っ直ぐ校長室へ向かっていた。

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