表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
126/159

第124話 市役所

 翌日。


 正義、栞、凪の三人は、市役所を訪れていた。


 手には、大切に抱えた一冊のファイル。


 『地域貢献活動委託事業』


 学校長の公印が押された正式な原本だった。


 応接室。


 楠市長は三人を温かく迎え入れる。


「査問会議のことは、小林先生から聞いとるよ」


「大変やったなぁ」


 三人は深く頭を下げた。


 正義は静かに書類を差し出す。


「市長、この書類を見ていただけませんか」


「ええよ」


 楠市長は眼鏡を掛け直し、ゆっくりとページをめくる。


 部屋には紙をめくる音だけが響いていた。


 数分後。


 市長の表情が変わる。


「……これは」


 もう一度、最初から読み返す。


 そこには、学校の教育理念とともに記されていた。


『本校は、キリスト教精神に基づくミッションスクールとして、隣人愛と奉仕の精神を教育の柱とする』


『地域社会への奉仕活動は、本校教育理念を実践する重要な教育活動である』


『よって本校は、地域貢献活動の一部をエンジェル部へ委託する』


『本活動に必要な経費については、学校予算より支出するものとする』


 楠市長は静かに書類を閉じた。


「なるほどなぁ……」


 一度大きく息を吐く。


「これは学校だけの問題やないんだわ」


 三人は顔を上げた。


「学校が正式にエンジェル部へ地域貢献活動を委託しとったいうことは、この活動を教育活動として認めとったいうことだでな」


「それに、この一文がある以上、活動に使われた予算も学校が認めた正式な活動費なんだわ」


「予算の正当性を示す資料としては、十分力になる」


 正義は静かに頷いた。


「はい」


 市長は優しい眼差しで三人を見つめる。


「君たちの活動は、この街にとって必要なんだわ」


「夏祭りもそう」


「地域清掃もそう」


「老人ホームも、病院も、炊き出しも」


「みんな、君たちに助けられとる」


 凪は思わず笑顔になった。


「ありがとうございます!」


 しかし、市長は穏やかに表情を引き締める。


「でもなぁ」


「学校側の言い分も分かるんだわ」


 三人は真剣な表情で耳を傾けた。


「学校には学校の規則がある」


「限られた予算を公平に配分せないかん」


「部活動として一定の基準を設けることも必要なんだわ」


「だもんで、市が学校へ『こうしなさい』とは簡単には言えんのだわ」


 正義は静かに頷く。


「……はい」


 楠市長は再び書類へ目を落とした。


「でも、この書類は大きい」


「予算が正当な活動費だったことは、十分説明できる」


「査問会議でも、大きな力になると思う」


 栞も安堵したように頷いた。


「ありがとうございます」


 市長は少し考え込んでから口を開く。


「それと、市役所にも当時の記録が残っとるかもしれん」


「学校と市でやり取りした資料が見つかれば、もっと力になるかもしれんでな」


 正義は思わず身を乗り出した。


「本当ですか!」


「ただなぁ」


 市長は苦笑する。


「公文書を探すには少し時間が掛かる」


「第二回査問会議までに間に合うかは分からん」


「でも」


 市長は三人を真っ直ぐ見つめた。


「できることは、やらせてもらうでな」


「君たちがこの街のために頑張ってきたことは、わしが一番よう知っとる」


「今度は、わしが君たちを支える番なんだわ」


 三人は深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 市役所を出る頃には、夕日が街を優しく照らしていた。


 学校。


 地域。


 立場は違っても、自分たちを信じ、支えてくれる人がいる。


 その事実が、三人に新たな勇気を与えていた。


 第二回査問会議まで、残された時間はあとわずか。


 それでも、希望の灯は確かに輝き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ