第122話 責任
放課後。
三人は職員室を訪れていた。
目の前には、松田が立っている。
正義は深く頭を下げた。
「松田先生」
「お願いがあります」
松田は三人の表情を見て、何を言われるのか察したように小さく頷く。
「……顧問のことだな」
「はい」
栞も頭を下げた。
「先生に、エンジェル部の顧問になっていただけないでしょうか」
凪も続ける。
「お願いします!」
三人の真っ直ぐな眼差しを受け、松田はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「気持ちは分かった」
「でも、今ここで返事はできない」
三人の表情が曇る。
松田は静かに続けた。
「俺は野球部の顧問だ」
「兼任なんて、この学校では前例がほとんどない」
「俺一人で決められる問題じゃないんだ」
正義はゆっくり頷いた。
「……分かりました」
「無理を言って、すみませんでした」
三人は一礼し、静かに職員室を後にした。
その背中を、松田は黙って見送る。
夕暮れ。
職員室には、教師の姿も少なくなっていた。
松田は一人、自席へ腰を下ろす。
机の上には、査問会議の資料が置かれている。
その表紙をぼんやりと見つめながら、小さく呟いた。
「エンジェル部か……」
半年ほど前。
留年寸前だった正義へ、エンジェル部を勧めた日のことを思い出す。
最初は嫌々入部した正義。
それでも今では、誰よりも真剣に奉仕活動へ取り組んでいる。
努力を惜しまない栞。
いつも笑顔で周囲を明るくする凪。
三人は夏休みも休まず、人のために汗を流し続けた。
その姿を、松田は担任としてずっと見てきた。
査問会議で語られた三人の想いも、今も耳に残っている。
松田は静かに目を閉じた。
「エンジェル部を勧めたのは俺だ」
「ここまで頑張らせておいて……」
一度言葉を切る。
「最後だけ見捨てるのか」
教師として。
担任として。
自分には何ができるのか。
松田は窓の外へ目を向けた。
夕日に照らされたグラウンドでは、野球部が最後の練習を続けている。
その光景を見つめながら、松田は静かに拳を握った。
教師としての責任。
その答えを、松田はまだ探していた。




